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【驚嘆】「現在は森でキノコ狩り」と噂の天才”変人”数学者ペレルマンの「ポアンカレ予想証明」に至る生涯:『完全なる証明』

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世紀の難問ポアンカレ予想を証明した天才”変人”数学者ペレルマンの生涯を描く評伝

本書は決して「数学の本」ではない。数学的な記述はほぼ出て来ないし、本書全体に関わる「ポアンカレ予想」自体の説明も、非常に短い。本書は、ペレルマンという数学者の生涯を描く作品であり、数学が苦手だという人でも十分に楽しめるはずだと思う。

今回の記事では「ポアンカレ予想」そのものの説明はしないが、数学の世界でどれぐらい重要だとされているのかについては触れておこう。

2000年、クレイ数学研究所が「ミレニアム懸賞問題」と名付けた7つの未解決問題を発表した。そのどれもが、数学界において極めて重要であり、解決が望まれている。そしてその内の1つが「ポアンカレ予想」というわけだ。「懸賞」と付く通り、7つの未解決問題の内どれか1つでも証明すれば100万ドルの賞金を手にすることが出来る。1ドル100円だとしても1億円だ。「ポアンカレ予想」はつまり、「1億円の懸賞金をかけてでも証明してほしい問題」なのである。

7つの「ミレニアム懸賞問題」の内、この記事を書いている時点で証明済みなのは「ポアンカレ予想」だけ。これだけでもペレルマンの凄まじさが伝わるだろう。さらに驚くべき点がある。ペレルマンは当然、100万ドルの賞金を受け取る権利を手にしたのだが、彼はなんと賞金の受け取りを断ったのだ。それだけではない。「数学界のノーベル賞」と呼ばれ、4年に1度しか受賞者が発表されない数学界最高の栄誉「フィールズ賞」も辞退している。もちろん、「フィールズ賞」の辞退など、前代未聞で、ペレルマン以外には例がない。

相当の「変人」だと感じるだろう。数学者には、ぶっ飛んだ逸話を持つ「変人」が多いのだが、ペレルマンもかなりのレベルだと言っていい。

そんな人物を描いたのが、本書『完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者』である。

本書には、ペレルマン本人のインタビューは載っていない。著者はペレルマンに接触出来なかったのだ。これは著者に限る話ではない。ペレルマンは現在、世俗との関わりを断って生活していると言われているのだ。「森でキノコを採取している」なんて噂も出るほどである。ペレルマンの恩師さえ連絡が取れないというのだから、その徹底ぶりはかなりのものと言えるだろう。

その生涯は、信じがたいほど波乱に満ちている。

著者がペレルマンに関心を抱いた動機と本書の構成、そしてペレルマンの「出会いの強運」

本書の冒頭で著者は、「何故ペレルマンの本を書こうと思ったか」について、その理由を3つ挙げている。

・ペレルマンは何故、「ポアンカレ予想」の証明にたどり着くことが出来たのか
・ペレルマンは何故、数学を、そしてそれまで住んでいた世界までをも捨ててしまったのか
・ペレルマンは何故、賞金の受け取りを拒んだのか

本書は基本的に、これらの疑問に答える作品だと言っていい。

その上で、本書の内容は大きく2つに分けられる。

・ソ連の数学教育の環境において、子ども時代のペレルマンはどのように育っていったのか
・ペレルマンは何故、数学界に失望していったのか

そしてそれらの描写の合間に、「ポアンカレ予想」の証明に関する話題が様々に組み込まれるという構成になっている。

それではまず、ソ連の教育環境の話から書いていこう。

天才数学者に関する本なのだから、「ソ連の教育環境はとても良かった」とイメージする人もいるかもしれない。しかし実際には逆だ。ペレルマンはソ連の教育環境の中でかなり苦労を強いられることになる。現代日本でも状況はさして変わらないが、「ギフテッド」であるが故の苦悩に苛まれていたのだ。

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