【逸脱】「人生良いことない」と感じるのは、「どう生きたら幸せか」を考えていないからでは?:『独立国家のつくりかた』(坂口恭平)
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この社会を生き抜くための様々な言葉が詰まった「自称・初代内閣総理大臣」の生き様
著者・坂口恭平とは何者か
本書の著者である坂口恭平についてまったく知らないという人は、彼が「初代内閣総理大臣」を自称していると聞いて、「胡散臭い人物なのだろう」と感じるでしょう。
著者は、「憲法が生存権を保障しているのに、金を稼がない人間が生きていけない世の中はおかしい。憲法違反だ」と主張して、熊本県に「新政府」を樹立しました。その「初代内閣総理大臣」に就任した彼は、0円でも生きていける環境(あるいは可能性)を提示するという発想をベースに様々な活動を行っているそうです。
著者が注目されたのは、デビュー作である『TOKYO 0円ハウス0円生活』でしょう。
建築学科に通いながら、まったく建物に関わる気配を見せなかった著者が卒業制作に選んだテーマが「ホームレスの家」でした。ホームレスが住んでいる家は、「人間が暮らしていく上での『機能』という点で優れていると言えるのではないか」というのが著者の基本的な発想です。ダンボールハウスを撮影した写真で卒業制作を行い、それがリトル・モアという出版社から発売されることになります。そしてその後、隅田川で出会った鈴木さんというホームレスとの話を中心にまとめた『TOKYO 0円ハウス0円生活』を出版するのです。
坂口恭平の作品を何作か読んだことがありますが、やはり「視点」が非常に面白いと言えるでしょう。同じ世界に生きているはずなのに、ごくごく普通に生きている私たちのような人には見えないものを垣間見せてくれます。「0円で生活する」という目標も絵空事だとは考えておらず、「どう生きるべきか」をきちんと見定めれば0円で生きられる可能性は十分にある、と捉えて様々な活動をしているわけです。
著者の主張すべてに納得できるということはないでしょうし、主張によっては「胡散臭い」という印象を抱かせるかもしれません。しかし、本書を含め、坂口恭平の著作から感じ取るべきは、「いかに『常識』に抗うか」であり、もっと言えば「『常識』をどう捉えるのか」ということだったりします。
著者の主張そのものに納得がいかなくても、「自分の頭で考えて、『常識』に逆らってきた」というその姿から、自分の振る舞いを見直してみることはできるでしょう。
「やりたいこと」をやってはいけない理由
坂口恭平の作品は割と、統一性を感じさせない散逸な主張が散りばめられることが多く、様々な話題が出てきます。その中で私が一番興味深いと感じたのが、この言葉です。
今の時代、様々な人が色んな形で「やりたいことをやって生きていけ」というような主張をしている気がします。ただ私は、そういう主張にどうもピンと来ません。そもそも「やりたいこと」がないからですが、それ以上に、「全員がやりたいことをやってたら、ゴミ収集とか誰がやってくれるんだろう?」みたいに考えてしまうのです。なかなか「ゴミ収集をやりたい」と感じる人はなかなかいないでしょうし、となると「誰もがやりたいことをやって生きる社会」では誰もゴミ収集をしてくれないということになるでしょう。
そんな風に考えて、いつもモヤモヤしてしまいます。
そういう意味で、著者の「自分がやらなければならないことをやる」という主張は非常に納得感がありました。そしてまさに著者自身が、そういう生き方を実践している人だと言えます。
著者は自分が行動する動機に「お金」や「欲望」を置きません。そうしてしまうと、お金が手に入ったら、欲望が満たされたら、行動のための動機がなくなってしまうからです。
そうではなく著者は、自分以外に誰もやる人はいないだろう、と感じることに手を出し、色んな人を巻き込み、そうやって社会を変えていこうとします。「革命のために新政府を樹立する」という、誰も思いつかないしやろうともしないだろう発想をベースに行動し、周囲の人間がその熱に感染し、著者が言う「領土」はどんどん増えているのだそうです。実際に社会を変えられるかどうかはともかく、非常に素敵なスタンスだと言えるでしょう。
なかなか著者のような生き方を選ぶことは難しいでしょうが、もっと低いレベルで「自分がやらなければならないことをやる」というスタンスを貫いてみることは出来るのではないかと思います。
また、「やりたいこと」という発想がベースにあると、「私がやりたいことってこれなんだっけ?」「やりたいことを早く見つけなきゃ」と余計な悩みも付随することになりますが、「これは自分がやらないといけない」という考えが土台にあり、そこになにかしらの使命感を抱くことが出来れば、そういう悩みとも無縁でいられるでしょう。
著者はこんな風にも書いています。
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