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【奇妙】大栗博司『重力とはなにか』は、相対性理論や量子力学の説明も秀逸だが、超弦理論の話が一番面白い

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大栗博司『重力とはなにか』は、相対性理論・量子力学の説明も分かりやすいが、やはり専門である超弦理論の話が抜群に面白い1冊

本作『重力とはなにか』の著者である大栗博司の著作については、当ブログ内にも『大栗先生の超弦理論入門』がある。科学の話が好きな私にはとても面白い作品だったが、一般書としてはかなり難しい部類に入るだろう。タイトルにもある「超弦理論」は、大栗博司の専門分野であるかなり最先端の理論物理学であり、スパッと理解できるような話ではない。

そういう意味で言えば、本作『重力とはなにか』の方がかなり易しいと言えるだろう。「重力とはなにか」という問いは実はなかなか難しく、その説明のために相対性理論や量子力学の知識が必要になるのだが、著者はそれらについてもかなり平易な説明を行いながら、さらに自身の専門分野である超弦理論にも話を広げていくのである。相対性理論も量子力学も一筋縄ではいかない理論なのでもちろん簡単なわけではないが、科学に多少なりとも関心を持つ人であれば読み通せる本ではないかと思う。

さて、本書はかなり「基本的」な記述が多いため、正直なところ私は、内容の大半を知っていた。しかし、だからといって「つまらなかった」などと言いたいわけではない。「知っていること」と「理解していること」にはやはり大きな差があるからだ。大学では理系学部に所属してはいたものの、専門課程に進む前に中退したので、科学についてきちんと学んだことはない。あくまでも、一般書を読んで分かった気になっているだけだ。だから何度でも同じ内容を頭に入れ、どんどんと「理解」に近づきたいと思っている。

じゃあ何が言いたいのかというと、「私が元々知っていたことが多い」ということは、「各分野の『押さえておくべき基礎知識』がまとまっている」と考えていいのではないかということだ。「科学の興味深い話の入口」みたいな作品と言えると思うので、本作を読んだ上で、惹かれた分野についてさらに掘り下げていくみたいな感じもオススメである。

それでは内容に触れていくことにしよう。

量子力学は大変難しい

本作では、物理学における様々なジャンルの話が触れられているわけだが、その中でもやはり「量子力学」は群を抜いて難しいと私は思う。科学の話とは思えないようなインパクトのある主張が非常に多く、雑学として頭に取り込む分にはとても楽しい分野だと思うが、いざ真剣に理解しようとすると「マジで何言ってるわけ?」と混乱してしまうだろう。

当ブログでも、量子力学を扱った本をいくつか紹介している。とりあえず、2つだけリンクを貼っておこう。

この記事では量子力学そのものの説明はしないので、興味がある方は先の記事を読んでみてほしい。

さてしかし、「量子力学がいかに難しいのか」については触れておこうと思う。

まずは、ファインマンという物理学者の言葉から。彼については以下の記事で紹介しているが、様々な逸話を持つ天才物理学者で、一般的な知名度で言っても、アインシュタイン、ホーキング博士に次ぐぐらいの知名度があるように思う。また、量子力学に関する功績でノーベル賞も受賞しており、量子力学についてもかなり詳しい人物である。というか、あまりにも天才すぎて「専門分野が無い」と言われたぐらい、様々な領域で活躍した物理学者なのだ。

そんなファインマンは量子力学について、「『量子力学のことが分かっている』なんて奴に会ったら、そいつは嘘をついている」みたいなことを言ったそうである。つまり、「量子力学に関して誰もが認めるだけの素晴らしい功績がある人物」でさえ、「量子力学のことなんか分からない」と口にしているのだ。となれば、凡人に理解できるはずもないだろう。

さて、このような主張は本書『重力とはなにか』にも書かれている。作中に「反粒子」について説明する箇所があるのだが、その記述に先立って著者は、別の本から引用をしつつ次のように書いているのだ。

これは、カブリIPMUの村山斉機構長の著書『宇宙は何でできているか』(幻冬舎新書)に、
あまりまじめに考えると頭が混乱して気持ち悪くなるので(笑)、「そういうものか」とファジーに受け止めたほうがいいでしょう。私もあまりまじめに考えないことにしています。
と書いてある話です。

「カブリIPMU」というのは大栗博司が所属する研究機関である。そしてそのトップである村山斉もまた、「まじめに考えると混乱する」と言っているのだ。

なので、本書に限る話ではないが、量子力学の知識に触れる際には、「天才だって全然分かってないんだから、自分ごときが理解できるはずがない」と思っておくぐらいでちょうどいいだろう。理解しようとさえしなければ、そのあまりに奇妙な世界に惹きつけられてしまうはずだ。是非入門書などに触れてみてほしいと思う。


著者の説明の分かりやすさと、科学啓蒙書の宿命について

さて、量子力学は大変難しいわけだが、本書『重力とはなにか』の記述は、量子力学の説明に限らずとても易しいと感じた。その理由の一端については、あとがきで次のように触れられている。

本書を書くときに思い浮かべたのは、卒業以来会っていない高校の同級生でした。(中略)
久しぶりに会ったので、一緒に勉強をした高校の理科から話を初めます。しかし、説明を簡単にするためにごまかしをしてはいけない。大切だと思うことはきちんとわかってもらえるように、少しぐらい話が長くなっても丁寧に説明しました。

「もし高校の同級生に再会したら、自分の研究分野についてどう説明するか?」を頭に思い浮かべながら書いたというわけだ。もちろん、学問分野そのものがかなり難解なので、易しく説明するにも限界があるわけだが、その中でも著者は、相当に努力して理解しやすい説明をしてくれていると思う。サイエンスライターではなく現役の研究者が書いているのだから、内容もお墨付きと言っていいだろう。「重力」というテーマも非常に身近なものなので、「最先端の理論物理学」に触れるのに本書はかなり最適と言えるのではないかと思う。

また本書の場合、例を使った説明もとても上手い。例えば、「光電効果」。この現象は発見された当初、「どうしてこのようなことが起こるのか誰も説明できない」というほど奇妙なものだった。その後、この奇妙な現象の理屈を、かのアインシュタインが「光量子仮説」によって説明し解決に導いたのだが、その「光電効果」についての説明がとても上手いのだ。「囚人」と「100円玉」という身近なものを使って、かなり直感的に説明してくれるのである。私は「光電効果」についても色んな本で読んだことがあるのだが、本書のような説明を目にしたことはないので、恐らく著者のオリジナルではないかと思う。

このように、「馴染みのない人にもいかに分かりやすく説明するか」という点をかなり突き詰めていると感じるので、「科学に興味はあるけど、難しいのはちょっと……」という方にこそ手にとってもらいたいと思う。

これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます

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