うつほ物語『春日詣』
時は朱雀帝の御世に戻り、東宮があて宮の入内を要請した翌年2月、源正頼は春日詣を行います。正頼の母が藤原氏のため、藤原氏の氏神を祀る春日大社へ、子供達や婿達を連れて参詣します。
夕暮になり、あて宮は琴を弾き鳴らしました。この琴は、忠こその継母にあたる一条の北の方が零落して売り払った俊蔭の琴で、正頼が買い受けていたのでした。
同じ頃、出家をして修行に専念していた忠こそは、全国の神社に経を奉納しようと、春日神社を訪れていました。夕暮れ時、琴の音が聞こえて音の方へ向かうと、春日詣を行う正頼たちに出会いました。正頼は、過去に突然姿を消した忠こそと再開したことに驚き、喜びます。
正頼との別れ際、強風が吹いて正頼の娘たちがいる場所の幕が吹き上がり、忠こそはあて宮を見ました。その美しさが脳裏から離れず、心乱れる忠こそは、神社巡りを中断して鞍馬山に引き返してしまうのでした。
3月になり、藤原兼雅は花見をしようと、俊蔭の娘を連れて桂にある別荘に滞在していました。大勢いた妻たちを顧みず、俊蔭の娘とだけ時を過ごす兼雅の様子を聞き、昔俊蔭の娘に入内を要請したのに実現しなかったことを思い出しながら、朱雀帝は桂にいる俊蔭の娘に歌を送りました。
俊蔭の娘は、谷にいてもお手紙を拝見できて嬉しく思います、という返歌を書き、帝の使者に渡したのでした。