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天使の髪の毛

 さて、出かけない三連休二日目の晩御飯は何にしよう。
 毎年、夏の定番で作るのに、今年食べていないものがあった。
 魚介とトマトの冷製パスタ。
 
 『天使の髪の毛』と言われるカッペリーニ。
 細い細いパスタと、アンチョビベースで魚介類をたくさん入れたトマトソースを冷たくして食べる。
 箱に入ったDECECCOのパスタが懐かしいけれど、私が行く店では袋のパッケージだ。
 capelli d'angelo   
   Angel hair pasta
 呼び名が可愛らしい。
 
 「あれ、あれ!天使の髪の毛を冷やしたの。あれが食べたい。」
 という息子のリクエストに答えるとしよう。
 ソースに使う赤ワインを切らしていて、気温が上がる前に買いに出た。

 いつもは忘れていることがある。
 仕事を終えて慌ててメトロに乗り、夕飯について考え始める。
 冷蔵庫の中のものを思い浮かべて組み合わせて、足りないものを買い足して帰る、という毎日を送っている。

 本来はゆっくりと時間をかけて、自分が作った料理を誰かと食べられることは、幸せなことである。
 「美味しいね!」と一緒に食べる幸せに感謝し、話しかけた言葉に返事があることのありがたさに感謝する。

 「天使が見守ってくれているわ。」
 と子どもには言ってきたけれど、それは本当だと思っている。
 突然、一瞬だけ花の良い香りがしたり、涼やかな音が聞こえた時、天使が通ったと思うことにしている。
 守ってくださってありがとう、と心の中で唱える。
 いつも、空を見ているので、足元を見て羽が落ちていたりすると、やっぱりね!と思う。


 この前、玄関のチャイムが鳴り、カメラを見ると息子によく似た男の子が立っていた。
 今朝、大学に来て行ったTシャツと同じような色のTシャツを着て、同じく黒のリュックを背負っていた。
 ん?似ているけど、ちがう。
 髪型もよく似ているけれど、息子より細面である。
 でも、似ている。

 明るい時間だし、友達が訪ねて来てくれたのかもしれない、と少しだけドアを開けた。
 「あ、間違えました!」
と言って、その男の子は行ってしまった。
 表札も出してあるというのに?
 息子が帰ってきてから話すと、心当たりはないという。

 ああ!もしかしたら、天使かも?と思うことにした。
 私の姿も見ずに、「はい。」という声だけ聞いて、元気なことを確認し、安心して帰られたことにしよう。

 私は若い時から、飛行機でも車でも九死に一生を得る体験をしている。
 人はこうやって死んでいくのか、と事故の真っ只中に考えていた。
 頭は冷静なのが、とても不思議だった。
 車がスローモーションでスピンしている感覚を味わいながら、
 「でも、大丈夫!」
 という感覚でいた。

 いつも無傷で守っていただいている。
 本当に感謝しかない。
 当たり前のことは当たり前ではない、と常日頃思うこと。
 今回は、一味違う『天使の髪の毛』をいただくとしよう。

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LUNA.N.
書くこと、描くことを続けていきたいと思います。

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