その窓から宇宙は見えますか | 『いわずにおれない』 まど・みちお
まどさんの名前は知らなくても、童謡『ぞうさん』『やぎさんゆうびん』『一年生になったら』などの詩を書いた人、と聞けばどうでしょう。
知っている人も知らない人も、私たちは小さい頃から、ずっーとずーっと、まどさんの詩と一緒に生きている気がします。
まどさんへのインタビューとまどさんの詩、それから、まどさんが50歳を過ぎた頃から集中的に描かれたという抽象画で構成されたこの本は、まるで心をポカポカと温めてくれるひだまりのようです。
いや、優しいだけではないか。
心の窓を開いて微生物から宇宙の果てにまで思いを馳せ、命あるものないものを等しく区別せず、不思議で複雑な存在としてまっとうに不思議がる。
そして、不思議に思うことをまた、不思議に思う。
それが、まどさんのスタイル。
そうやって、気にもとめないような身近なものを面白がれたり、その素晴らしさを発見できるのは、並々ならぬ好奇心と探究心のなせるわざ。
そしてその発見の源泉には、存在しているものの本質に迫ることの難しさや分かったつもりになることの危うさについての自問自答があり、人間がいとも簡単に傲慢になれる動物であるということに対しての、自戒の念も含まれているようです。
それからまどさんは、言葉についてこのように答えられています。
自販機の「あったか〜い」とかもそうだと、まどさん。
駄洒落だって、くり返し言いたくなる語呂合わせや耳馴染みの良さに、響きを楽しむ感性、というのが現れているのかもしれないから、親父ギャグだってバカにできないのかも。
だって言葉は、目だけでなく耳でも触れるものだから。
まどさんの詩が音楽と相性のいいことにも、納得です。
「言葉の意味」の謎を解き明かすヒントの欠片は、ここにもあったのですね。
追記。
まどさんの詩の編集もされていた谷川俊太郎さんは、まどさんのことを
『自分は消してしまって、その代わりに、自分が信じている宇宙の仕組みとか素晴らしさみたいなものが言葉で残ればいいと思ってるんじゃないか』
と評されています。
その谷川さんが先日、92歳で彼の岸へ旅立たれました。
「やぁやぁ、どうもどうも」なんて、あちらで再会してやってらっしゃるんでしょうか。
きっと、次の世代にバトンが渡されたのですね。
まどさん、谷川さん、数々の素晴らしい詩を私たちに届けてくださり、ほんとうにありがとうございました。
谷川俊太郎さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
まど・みちお『いわずにおれない』(2006)集英社