重力から解放されるような言葉たち | 『えーえんとくちから』 笹井宏之
短歌を『短い詩』と表現する笹井宏之さんの、おまじないのような祈りのようなタイトルの歌集『えーえんとくちから』。
永遠なんてないことを知って、こどもみたいに泣けたならどんなに楽だろうか。
そんなことを思いながら一年くらい手にせず、最近ようやく読むことができた。
そして、思った。
笹井宏之さんが紡ぐ言葉には「青」が似合う。
海の底のようなどこまでも深い青。
透き通る水のように光を含んだ青。
ミルクをスプーンで少しだけかき混ぜたようなマーブルの青。
厚い雲の隙間からのぞく憂鬱がかった空の青。
そのどれもが、いつかどこかで見たことがあって、でも大切すぎて、宝箱にカギを掛けてしまい込んだまま忘れかけていたような、かすかな痛みを伴った「青」なのだ。
今、思いきってカギを開けてみる。
そこに在る小さく折りたたんた自分宛ての手紙の、その折り目やシワをひとつひとつ手で伸ばしながら、その時に書いた文字とその紙の匂いや感触を指で手のひらでなぞって、確かめる。
その時、再びなつかしい自分との出会い直しを果たすような。
或いは、笹井宏之さんが病を患う中で研ぎ澄まされていったであろう身体的感覚器と、無粋さを嫌う静かな美意識とで、まだ私の知らない「青」も見せてくれる。
その青はどんな青だろうかと想像しながら、日常の中に在るほんの些細なものが世界をつくっていることを、あらためて知る。
生きるということはどういうことなのか、ということと一緒に。
辻褄の合わない感情や、隠された世界の秘密をあらわにしたような、言葉たち。
その言葉たちは重力から自由な気がする。
笹井宏之『えーえんとくちから』(2024)筑摩書房
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