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『半自動筆記に依る夜想曲』が産まれるまで

 詩というものはどんな物でも実は不可解で無い物は存在しないものですが、この散文については成り立ちについての説明がなければ、単に暗示的であるに過ぎない散文詩としてしか受け取られかねず(作品としてだけであれば、問題ありませんが)、後は、何故タイトルが『半自動筆記』なのか説明もできず、その辺りが明瞭でないと意味がわからないと思い、筆を取りました。
 これら散文は、始めからその要素たるテーマが存在していた訳ではなく、細切れになった一語一語のカードを、皿や箱状の物の中に入れ、内容を見ないように丁度くじ引きで一まとまりのセットを作ります。そして、これら集成したものから連想を働かせ、センテンスを創作するというプロセスを辿っています。ここで私は言葉のまとまりを、主に俳句や川柳のリズム、いわゆる5・7・5のリズムを一字=一語に見立ててくじ引いています。(いくつか例外がありますが)全ての作品で三分割されている、又はセンテンスが短・長・短の組み合わせになっているのは、この為です。
 一応、言葉の集まり(お題もしくはネタと呼んでいます)の例を上げると、

 5 神の地/テーブルクロス/最後の審判/小説雑誌/イシュタル
 7 英雄/恋と愛/南米/〜たる/酸化アルミニウム/
 テルナーテ/ヘタレ
 5 マルドゥーク/怪奇園芸店/尽力する/ポチョムキン/むせたら

 こういった具合の言葉のセットから、時にそのまま、時に連想による変換を行い、センテンスを構築して行く、という訳です。ちなみに、この元ネタはまだ大分普通な方で、セットによってはもっと意味不明な言葉の羅列だったりする場合も当然のようにあります。あんまりにもアホっぽいので手の内を明かす訳にはいかないのですが、実はこれら作品の中にもそういうアホっぽい言葉セットから創作されたものもあります。
 この言葉のカードの束を魔法杖、マジックワンドと呼んでいます。もう随分若い頃(多分、19歳くらい)に、ふとした思い付きで創ったおもちゃだったりします。何故そんなものを創ったのかと言うと、この辺りが『半自動筆記』の命名の由来なのですが、ブルトンらシュールレアリストがダダ詩の創作の為、寝ている人間のうわ言を書きとめていたという話を聞き、『別に寝言じゃなくても良いんでないの』とか思ったのがひらめきの始まり。
 私はそこで適当な紙にその場の思いつきで言葉を書き入れ、紙幅が一杯になったら個々の言葉を鋏で切り出して、箱の中でシャッフルしてくじ引き方式で再び言葉を並べていくという遊びを初めました。ランダムに選ばれた言葉のセットはダダ詩そのものになり、最初はかなり面白がっていたのですが直ぐに飽き、机の片隅に忘れ去られる事になりました。そしてそれは、大分長い事忘れ去られていたものでありましたが、実家から出た際荷物の中にたまたま紛れており、それまでの遊び方には無かった上記の様な有用な使用法を思い付いたのでした。
 この手法は、通常の詩だとやりにくい物語性や時間経過の特性を持ったものが大変創りやすい美点がありますが、反面長冗舌になりがちで、詩の元来の特性と思われるアフォリズムの観点からは余り褒められたものでは無いという欠点もあると思います。
 そして何より、一度ばらばらに寸断された言葉を継ぎ接ぎし、それまでと全く異なる価値を再構築すると云う作業自体、正しくゴシック(というか、小文字のgoth)の精神と呼んで差し支えないと思います。
 まあ、一言でまとめるのなら、『ダダ詩ジェネレーターの有効的再利用とその例』といった具合でしょうか。
 原稿の状態では発表を考慮に入れていないため、ひたすらレポート用紙の紙幅にあわせていた為非常に読みにくいものでしたが、掲載の都合を考え、読みやすく且つ味わいをスポイルしてしまわないように改行を工夫して編集しました。
 ちなみに、実はそれぞれのサブタイトルは初めから決まっていたものではなく、溜まった段階で整理する都合によって付けられたものです。
 では、お楽しみくださいますよう。

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