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どこかに埋もれて見つけられなくなってしまうと悲しいから自分の本棚に飾っておきたい。そんな記事を集めた、自分満足用のマガジンです。
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#エッセイ

掌編小説/ドールハウスの夜

「ねえ、知ってる?」と妻は言う。 「知らない」とぼくは応える。  洗濯物をたたみながら、妻は微笑む。 「昔の人ってね、キャベツ畑から赤ちゃんが産まれてくると思っていたんですって」  そう言って、自分の下腹部を愛おしそうに撫でている。  寝つけない夜だった。  寝室のカーテンが少しだけ開いていて、その隙間から射しこむ光がぼくの顔を照らすからだった。目を閉じていても、街灯の白い光は瞼を透かして、ぼくの眼球に突き刺さった。カーテンを閉めればいいのだが、体はすでに眠りはじめていて

【雑談】『すまいるスパイス』で推していただきました。

ありがたいことに、この度『すまいるスパイス』の新企画、『推しについて話そ?』で取り上げていただきました。 コッシーさんと豆島 圭さんという、むしろ推される側のお二人から『推し』として語っていただけるというこの企画。 もう、ドッキリを疑い監視カメラを探すレベルで、惜しげもなく褒めちぎっていただいています。 本当にありがとうございます。 「果たして白鉛筆以外に需要はあるのか」と心配になる内容ですが、コッシー×豆島 圭の2ショットトークが聴けるだけも十分価値はございますので、白

海亀湾少年のショートショート【エッセイ】

 短かいから読みやすい。短いから書きやすい——。  ショートショートを制作したことがある人なら、これと似たようなことを思った人は多いのではないだろうか。初めての創作で、いきなり原稿用紙百枚分の純文学作品を書き上げるのは難しい。けれども、小説の面白さを知った読者が、自分にも書けるのではないかと思い、小説の実作に挑戦しやすいのは、このショートショートという型式のように思う。  わたしもそのパターンだった。  小学生の頃から漫画のみならず、文章だけの子供向け読み物も好んでいた

主婦業を引退します。

 どうやら私は、骨の髄まで昭和な人間らしい。  平成の真っ只中に青春時代を送ったにもかかわらず、なぜか「引退」と言われて、思い浮かべるのは、安室奈美恵ではなく、純白の衣装に身を包んだ山口百恵の姿である。  ラストコンサートで「さよならの向う側」を熱唱し、舞台中央に白いマイクを置いて、芸能界を去っていった山口百恵。  一度見たら忘れられないドラマチックなシーンは伝説となり、平成を経た令和の今では、もはや神話となっている。  私はただの主婦である。  伝説や神話とは無縁の暮