やんちゃな弟②
弟が家にやってきてからしばらくしたある夜、弟を庭に放していた時に、ふと抱っこをした。
それまでも何度も抱っこはしており、その度に抱っこをイヤがり、放すと後ろ足で土をこちらにかけるようにして、行きたい所へ飛んでいく弟であることは知っていたが、可愛くて可愛くてつい抱っこをしてしまう。
▽前回の弟の話はこちら
その日は弟に話がしたくて抱っこをした。
「くーちゃん、かわいいねぇ。(この世に)生まれてきてくれてありがとう。そしてこの家でお父さんとお母さんの間に、そしてお姉ちゃん(私)の弟で生まれてきてくれてありがとう。お姉ちゃんはとーっても嬉しいよ!」
弟は黙って聞いていた。
「あんたが生まれてからこの家に来るまで、どんなことがあって、どんなイヤな思いをしたのか、お姉ちゃんには分からないけど…。この家に生まれたからには、正真正銘うちの家族だし、顔はお父さんのおじいちゃんに似てるし、性格や動作はお母さんのおじいちゃんにそっくりだから、それは間違いない。だからそれまでのことは全て、ぜーんぶ忘れなさい。」
続けて、
「お姉ちゃんだって生まれた時は病院だったし、そこから家にやってきたんだから。この庭もアンタが好きなように遊んでいいんやで。(一部は母に怒られるかもしれないが)とにかく、生まれてきてくれて、そして私の弟で生まれてきてくれてありがとう!」
そう言って、放してやると、土をかけることもなく、おとなしく飛んでいった。
その時に思った。
「あの子もキチンと話すとちゃんと分かる賢い子なんや。」
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その後も相変わらずやんちゃっぷりは健在で、色々やらかしてくれている。
ある日、学校から帰ると、父が庭で何やら作っている。
「お父さん、ただいま。何作ってんの?」
「くー君(父だけこのように呼んでいた)の為に、ちょっと遊べるサークルみたいなのを作ろうと思って。今日は休みやったから朝から作ってるねん。」
「へぇ、すごいやん!くーちゃん、お父さんがアンタのために作ってくれてるねんて!」
というと、弟は聞いてるのか、聞いていないのか知らないが、飛び回っている。
「一回、くーちゃんを入れてみよう!」
と入れてみたら、、、
サークルというのには程遠いもので、くーちゃんの直径分しかなく、遊べる余裕は全くない。
くーちゃんは『閉じ込められた!!!!!』と思い込み、ぐるぐる回りだした。
しまいには、ビニール紐で縛ってる部分を歯でギーーーーーーッッッと引っ張りだして、数分すると、サークルと思しきものが放射線状に倒壊した。
そしてくーちゃんは「フンッッッ!!!」って感じで、走り去っていった。
くーちゃんを入れてから倒壊まではしっかり時間を測っていたわけではないが、5分位の出来事だったと思う。
それに対して、父の作業時間は朝から夕方までなので、数時間は経っている。
私と父は顔を見合わせて、苦笑するしかなかった。
父はDIY等の図画工作がお世辞にも得意ではなく、不器用な所や性格、好み等すべてを含めて、90%は私のDNAに彼の情報が刻み込まれているのは間違いなく、そんな私を見て、
「アンタ、似すぎてイヤや。」
という迷言を言い放った。
したがって、今回のことも分かりすぎるし、
「あぁ、やっぱり私はこの人の娘だなぁ…。」
と改めて実感した瞬間であった。
よくよく考えれば、くーちゃんの直径以上を測らないと、彼が遊び回れる余裕などないのだが、私であってもおそらく、いやほぼ間違いなく同じことをやりかねないので、私は父を責めなかった。
「…せっかくの休みやったのに、無駄になっちゃったね。」
「ホンマやなぁ…。」
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後に、母が自身の幼少期の話をしてくれた時に、これと同じようなエピソードがあり、やっぱり血が繋がった弟としか思えなかった。
ちなみに母は、祖父にそっくりなので、くーちゃんが祖父に似ているということは、ほぼ必然的に母の性格に似ているということである。
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そんな弟も来たときから大きく、体重も私が抱く前と抱いた後で測ると、ピッタリ3キロだった。さすが私の弟、食べる量も身体のデカさも私によく似ている。
弟は年を経るごとに、身体は来たときから大きくなってないが、何やら顔にはヤ◯ザの傷のような黒いものが鼻のあたりに、左手(左前足)の手首には昔あった島流しの証のような入れ墨っぽい黒い線の2箇所、それぞれ目立ち始めた。
また弟を抱っこして、
「アンタさぁ、前世一体どんな悪いことしてきたの?強盗?器物破損?傷害罪?アンタも覚えてないか。」
と言うと、若干ブスッとした感じの表情に見えなくもない。
エピソードは他にもあり、一度に書ききれないので、また追々書いていきたいと思っている。
▽エピソードの一つはこちら
※実は今日はくーちゃんの命日です。毎年想うだけで大したことをしてやってないのですが、今年はこれを書くことで、ン十年前に旅立った彼を偲びたいと思います。顔の大きさや雰囲気が絵に少し似ているので、余計彼のことを思い出します(泣)