公共空間デザインを学ぶ旅 ①ミリカローデン那珂川【行政とまちづくり】
秋晴れの三連休中日、職場の後輩らを連れて、公共空間デザインを学びに自主視察に行ってきました🚙
せっかくなので、現地の様子、学びになったデザインなどをご紹介します。
きっかけ
政策・まちづくりへ若手の増加
近年、政策やまちづくり関連の部署に、とうとう私より年下の後輩職員らが配属されるターンがやってきました。
いよいよ世代の移り変わりが見えてきたということですね。
ただ、これまでの行政や技術の基礎業務と違い、まちづくりは複合的な応用業務。
本質的な成果が出るには最低でも3〜5年はかかるため、今までのように配属されてから「さぁ今からゆっくり覚えよう」としていたら、気づけば覚える前に異動になってしまいます。
なので、将来そういった部署に行きそうな子たちは、その前からちょくちょくまちづくりの現場に連れていき、いい景色を見せて、センスや本質の種を植えておくことで、いざ配属したときに1年目からフルスロットルで取り組めるんじゃないかなと、前々から考えていました。
空間デザインで市民を笑顔にする
行政技師の大きな役割のひとつは、「空間デザインを通して、市民の笑顔を創ること」。
まちづくり部署に限らず、法規・規制部署も、設計・工事部署も同じ。
立派な計画も上手な幹部説明も、それを実現するための通過点でしかありません。
しかし、何も知らないまま配属し、最初に業務としてまちづくりに触れてしまうと、ときに周りに引きずられて、「役所のためのまちづくり」がゴールになり、「紙の上の計画づくり」こそがまちづくりだと勘違いしてしまいがちです。
そうならないためには、とにかく役所外に出ること。現場が全て。
どんどん実際にいい空間を訪れ、降り立って、その場にある笑顔を体感する。
その体験を通して、自分たちの仕事が本質的に何を目指しているのか、理屈でなく心にピンを刺す。
そして、なんとなくで終わらせず、その空間デザインに気づき、要素を構造化し、言語化して持ち帰り、再現性につなげる。
以前からその機会を探していましたが、同じ九州内で、昨年5月に「佐賀サンライズパーク」のアリーナが、今年6月に「ミリカローデン那珂川」の図書館が、9月に「佐賀維新テラス」がオープン。
これは是非連れて行かねば!(自分も行きたい)と思い、2ヶ月前から企画しました。
ミリカローデン那珂川
2度の渋滞に巻き込まれ、予定の2時間遅れになりつつも、無事那珂川市に到着。初。
「らーめん ひさご」の中華そばで腹ごなし後、いざ目的地へ。
施設概要
福岡市都市圏南部に位置する那珂川市にある、複合文化施設のリニューアルプロジェクト。
お名前は市の木「やまもも=ミリカ」から。ガーデンのような広場を目指して。
この那珂川市、全国の地方衰退に逆行して、福岡市バブルの影響でぐんぐん人口が増え、近年町から市に昇格。
そんな市民の暮らしの中心となる公共施設。
1994年にできた、音楽ホール、図書館、生涯学習センター、記念館、エントランスホールの複合施設を、2021年から4年かけて使いながらローリング改修。
設計は、北九州市の古森弘一建築設計事務所。素敵な設計士さんです。
音楽ホールはリハ中、生涯学習センターは工事中ということで、エントランスホールと図書館を見てきました。
感想
この公共空間の感想を一言で表すなら、「居場所にあふれた森」。
市民の日常的なサードプレイスとなるよう、設計者がスタッフと色々なスケッチを描き、館内全体に100の居場所を創っており、木を使った優しい内装がそれらを統一的なデザインとしてまとめています。
視線の見え隠れとシークエンス
まず、よくある公共施設のように、四角い空間がほとんどありません。直線も直行も一部だけ。
大半が、有機的な曲線や角度を振った様々な斜めから構成されています。なので、開放的な空間の割に、結構視線が通らない。その分、歩いていて常に見え隠れる風景が変わっていって、そのシークエンスの変化が森を散歩しているようで、ちょっぴりわくわく。木漏れ日溢れる優しい森を訪れた気分になる素敵な空間です。
誰でもお気にいりの居場所が見つかる空間
また、ホールも図書館も椅子がたくさん置いてますが、これでもかというくらい全てデザインが異なります。
小さな円形のカフェテーブルから、木製の扇形デスク、マットを敷いたキッズコーナーや、低めのカラフルなスツール、ハイバックでゆったりするチェア、囲まれて安心するボックス席など。
これが先ほどの視線隠しと相まって、バラエティに富んだたくさんの居場所を生んでいて、誰にとってもお気に入りの居場所が一つ二つ見つかる、そんな空間になっています。
草原に寝転ぶ人もいれば、大樹に寄り添う人もいれば、木陰に隠れる人もいる、そんな物語を感じました。
空間のやわらかいつなぎ方
日常利用のメインはエントランスホールと図書館なのですが、この空間のつなぎが柔らかくて非常に素敵。
例えば、通常は図書館は静かさ最優先であるため、ホールと図書館の間に音を遮るガラス戸とかを設けますが、ここには一切ありません。開けてるんじゃなくて、扉すらない。
設計者の意思と行政の覚悟を感じます。
その結果、エントランスから順に、お喋りや飲食して過ごせる開放的なホール → ホール角のちょっと隠れた図書コーナー → 図書館入口の地べたキッズコーナー → 図書館内に点在する各読書スペース → ガラス戸で仕切られたサイレントスペースやティーンズガーデンと、空間の使い方がオープンから徐々にクローズへ有機的にグラデーションされています。
高さの仕掛け
こういった建物を見るとき、ついつい平面的な見方をしてしまいがちですが、心地よさにはそれ以上に高さのセンスが大切。
例えば、天井の高いエントランスホールですが、角にある図書スペースは、ちょっと落ち着く空間となるよう、天井から飾りを吊るし、やわらかく空間に蓋をしています。
また、図書館内の壁には備え付けチェアがあり、これがカウンターチェア並みの座面高さなことで、ちょこっと本の内容確認で座りやすい、でも自然と長居はしない場所となっています。
法律や安全性
公共空間なので、安全性や安心も大切。
大規模改修というのは、法適合性がなかなか難しいのですが、使うとこは使い、隠すとこは隠しています。
例えば、ホールも図書館も四角錐型のトップライトがあるのですが、これはおそらく建築基準法上図書館など不特定多数が利用する特殊建築物に必要な排煙窓。デザイン的には撤去したくても、そうなると外壁上部に別途排煙装置の設置が必要となるため、空間のノイズになってしまう。
なので、開放的なホールではそのまま活かし、日差しを入れたくない図書館では暗幕で隠しつつ開放機能は残しています。
また、3箇所にある「ミリカの木」と呼ばれる逆円錐型の木製パーゴラも、段々状にすることで飾り棚の役割を果たしつつも、下部は角度を急にすることでお子さんが登って怪我をしないようにしています。
ハロウィンシーズンはカボチャ小物に溢れてたとか。
狙ってやったんだとしたらすごいですね。
エントランスホールの様子
晴れた午後のいちばんいい時間帯に行ったのもありますが、とにかく色んな人の笑顔に溢れていてとても良かった!
扇形のテーブルでは学生や社会人が黙々と勉強、小さなカフェテーブルでは高校生がお菓子をお供にお喋り、ボックス席では家族連れがはしゃぎ、囲まれた木製パーゴラ内ではお子さん連れが佇む。開放性を抑えた図書コーナーは、そんな喧騒から少しだけ距離をおきたい老夫婦が腰掛ける場所。
それら全てを、カフェカウンター内の店員さんが優しく見守る。
カフェの店員さんと話しながら、いつも色んな人に溢れていて、どの時間帯・どの世代の人でも、干渉せずに同時に楽しめる、居場所の多い空間ですよねーとしみじみ。
まとめ
というわけで、念願のミリカローデンは予想以上に素敵な公共空間でした。
こういった、居場所に溢れる空間というコンセプトは、割りとよく使われていて、学生の課題でも聴くのですが、実際実現するにはすごくセンスが要ります。
特に今回のように制約の多い既存改修プロジェクトだとなおさら。
設計者が磨いてきたセンスと想いを感じますね。
※なお、撮影にあたっては、受付で所属と目的を伝えた上で、きちんと許可をとっています(腕章・許可証付)。