自主LocJAM Made in Italyに参加してゲームローカライズをやってみた話
2024年1月から1ヶ月ほど、「自主LocJAM Made in Italy」というものに参加して、チームでゲームを1本翻訳するという体験をしました。ゲームのローカライズを誰でも体験できる機会ということで、翻訳の他にどんなことをやっているか、どんなことを考えることになるのかが気になったので、参加してみました。
この記事は、その振り返りの記事です。
実際に翻訳したゲームは、以下からアクセスしてブラウザ上で実際に遊ぶことができますので、是非とも遊んでみてください。
自主LocJAM Made in Italyとは
▶︎▶︎ イベントについて
まず、「LocJAM」とは、ゲームのローカライズを行うゲームジャム形式のイベントです。課題ゲームが用意され、それを個人だったりグループだったりで期間内にそれぞれの言語にローカライズを行うというもので、全世界で行われています。
続いて、「LocJAM Made in Italy」は、2023年末に行われたLocJAMでした。この回では、イタリア語のテキストアドベンチャーゲームが課題ゲームとなり、このゲームの各種言語のバージョンが作られました。
そして、「自主LocJAM Made in Italy」は、LocJAM Made in Italy終了後の2024年1月から、LocJAM Made in Italyで作成された英語版か中国語版をベースに、日本語へとローカライズを行う日本独自開催のイベントでした。自分は英語版から訳す方で参加しました。
▶︎▶︎ 課題ゲームについて
今回の課題ゲームは、「AVVENTURA NEL CASTELLO IN JAVASCRIPT」という、1980年代のイタリア語のコマンド入力式テキストアドベンチャーゲームをブラウザで遊べるようにしたものを、英語に訳したものでした。
今回の課題ゲームの主な特徴は、
テキストアドベンチャーということで、文章主体の7000ワードほどが翻訳対象
コマンド入力式ということで、入力部分をどう扱うかが課題
イタリア語を英語に訳したものをさらに訳す
といったものでした。
実際にローカライズをやってみて
自分は偶然このイベントを開催の少し前に知りました。話として聞く分には、翻訳やローカライズの工夫を眺めるのは好きですが、実際にそれをやる側に回る経験はあまりなかったので、専門外の人でも参加できる体験会のような形のこのイベントがいい機会だと思って参加しました。英語などを辞書や翻訳機とともに読むことはありますが、ローカライズは初心者という素人の視点から、参加したこのイベントを振り返っていきます。
▶︎▶︎ スケジュールと自分の担当
まず1月に参加登録したのち、チーム分けが行われました。自分が振り分けられたチームは合計7人のチームでした。主催の方がDiscordの環境を用意してくださり、チーム内のやり取りはそこで行われていました。
その後、6週間の製作期間はおよそ以下のような割り振りで進んで行きました。
初めに課題ゲームをそれぞれ触ってどんなゲームかを確認し、その後担当箇所を決定しそれぞれを翻訳、全員の翻訳を合わせた後に、訳語や雰囲気の統一などの調整を行い、公開という流れでした。
今回の課題ゲームは、プレーヤーの操作をテキストで言葉を入力するという方式でした。自分たちのチームでは、この入力を日本語で行うようにすることにしたので、それに合わせたゲーム本体の調整改変も合わせて行いました。
このスケジュールの中で、自分は主に以下のタスクを担当しました。
ローカライズは素人なので、7000ワード強ある課題ゲームのうち、少し少なめの800ワード強を担当することになりました。代わりに、全体での会議や作品公開などでの雑務を引き受けました。
他にも、各々の翻訳をマージしたり、ゲーム自体の改変行うタスクがあり、これらはチームの他の方に行ってもらいました。
▶︎▶︎ 裏側を体験してみて
このイベントを通じてゲームのローカライズというものを体験してみて、感じたことや発見したことが色々とありました。
・翻訳を一つにするということ
まず、共同翻訳という形が初めてだったので、それぞれの翻訳を合わせて一つにするという部分の大変さを全体を通じて体感しました。
自分たちのチームでは、各々の翻訳を開始する前に、人称や文体などをどう訳すかという統一した翻訳方針を定めていました。主催の方がいくつか事前に決めておくといい方針を例示してくださっていましたが、その他にどのようなものをあらかじめ決めておくといいかという定石みたいなものを知らなかったので、全体の翻訳がブレないようにするための事前準備はかなり手探りな状態でした。
結果として、全員の個別の翻訳を合わせたときに、アイテム名などの名称やプレーヤーの所在を示す頻出の表現などで、翻訳のブレが発生していました。翻訳の個性を眺めるのはそれはそれでいい勉強になりましたが、これを一つのものにするために、それぞれの世界観や解釈をすり合わせてブラッシュアップしていくというのは、共同翻訳ならではの体験だと感じました。
振り返ると、固有名詞やアイテム名などの単語をチームとしてどう訳すかという対応表を共有して随時更新していたのですが、もっと全てを列挙するような勢いで単語を並べたり、事前のゲームプレーでどういう表現が頻出するのかをチェックしたりすると、翻訳の統一の精度は改善されたのかなと思います。
・コマンド入力式テキストアドベンチャーの難しさ
今回の課題ゲームはプレーヤーの操作をテキスト入力で行うゲームでした。課題ゲームが発表された時から思っていたのですが、やはりこのテキスト入力というのは曲者でした。
自分たちのチームでは、日本語ローカライズするにあたって、入力も日本語にすることにしました。そのため、入力に反応する語群も適切に訳し分けて準備する必要がありました。
例えば、自分の担当箇所ではこんなことがありました。本がたくさん置かれている部屋の調べられるアイテムとして、ゲーム進行上キーとなる本「book」と、それ以外の一般の本「books」が用意されていました。それぞれコマンドを入力された時の反応は違うので、日本語版にするにあたってこれを訳し分ける必要がありました。それぞれの本の重要度の差を日本語でも表現して意識的にキーアイテムを指定して欲しかったので、結果的に「book」は形容詞付きで「〇〇な本」(ゲーム内で確認してみてください!)、「books」は「本」となりました。
こういった調整は様々行われております。全体の翻訳を合わせた際に違う挙動を示すものに同じ訳が被ってしまっているものや、このコマンドでもこの挙動をしてほしいといったものを、翻訳の調整の際に見つけていくということがありました。
また、英語版では「take 〇〇」など「動詞+名詞」で反応するコマンドがあり、これを日本語版にするにあたって「〇〇 とる」のように「名詞+動詞」の語順でゲーム側が解釈できるよう、ゲームそのものを一部改変する必要がありました。この点については、チームの別の方が担当してくださいました。
・ジョークや造語
これをどうするのかについて頭を悩ませることになるのは翻訳にはつきものですが、今回の課題ゲームにもこの要素はありました。
特に今回のゲームは、造語の魔法の呪文をどうするかが問題でした。この魔法の呪文は、その断片を探して組み合わせ、その呪文を唱えるときに呪文を入力させるというものでした。そして、その組み合わせ方を間違えると、造語ではない別の存在する言葉ができるようになっており、それが入力された時の反応は類似の別の言葉を入力されたときの反応と合流するようになっていました。自分たちのチームでは、その造語の設計意図を汲み取った上で日本語にしようとなり、案を出し合ってどう訳すかを決定しました。ここをどうするかについては他のチームの対応も様々なので、比べてみるのも面白いかと思います。
他にもジョークなどを全体の雰囲気とのバランスをとりながらいい感じに訳すのはそれなりに難しく、改めてこういうものを上手く訳している人はすごい技術だなと身をもって体験しました。
・雑務の話
今回は、翻訳には直接関わるわけではないような雑務を色々と引き受けました。元々の参加動機として、単に文章を訳す以外にはどんなことをしているのかや考えているのかを知りたいというものがあったので、積極的に手を出すようにしていました。ローカライズにあたって何を決めておくべきなのか、どういったものが用意してあるとローカライズがやりやすくなるのか、そういったものを考えるのはいい経験になりました。
また、完成したゲームを登録公開する担当も行いました。どうにか期間内に作品をまとめ上げ、他の登録作品と並べられているところを確認した時は、安心感と達成感が大きかったです。
おわりに
初心者でもローカライズの裏側を体験できるという企画は中々ない機会で、苦労する面もありましたがより良い表現を探る頭の使い方は面白く、改めてこれを生業にしている方達の創意工夫の凄さというものを感じました。
ゲーム以外でも翻訳やローカライズが行われる場面は多々あるので、そういったものが今後より面白く見えてくるのだろうと思わされるいい体験でした。
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