みぜ
全3話。嘘つくことに生涯をついやしてきた男の行く末。
全7話。学生時代の三角関係を軸に広がる、不穏な物語。始まりだけは美しい。
全2話。幼い頃の美しくも恐ろしい記憶。
たらりと垂れる太陽の雫は夏の色。けれどそれも絶頂を過ぎ、もうすぐにも死期が来る。 蝉の鳴き声わんさかと。降り注いでは鼓膜を聾し、白昼の町にあふれるは不具者ばかり。蝉どもさえいなければ聞こえる耳を無駄にさらし、ただ陽に焦がす。 緑陰。ふさがれた鼓膜はないにひとしく、ならば地は静寂と言ってもよいのではないか。婦人がひとり、日傘をさして、手持ち無沙汰にくるくると回す。 紫の絞りの単衣に、やわらかなレースの白手袋。足元には目を射抜く照り返し、足袋の白。紅色の鼻緒がきゅっと草履
ごめんください、と言うと、開いてるよと返事があった。 少しばかりざらついた女の声音は何処となく蓮っ葉で、私は緊張してしまう。思わず戸を叩く手を握りしめ、ざりりと草履の裏で地を擦った。 いっそ逃げてしまおうかと思った。 ここまできてそれも意気地がないが、それでもいい。このまま駆けて帰ってしまえばどんなに気が楽なことか。母の怒号が飛ぶかもしれない……それでもいい、逃げてしまおう。 意識はそう思うのに、けれど足は動かない。 握りしめたこぶしを開き、そっと眼前の戸を開けた。
藍色の夜が沁みる。私は目をつむり、夜を追い出し、かわりに眼裏の景色を眺めることにした。 金色に縁取られた景色はいつもどおり美しい。遥か遠い山々の稜線に、あふれんばかりの緑。さんさんと零れる陽の光。そして世界の中心にその人はいた。 白い体毛がきらきらと光り、彼女の周りだけは夜の神秘が香っていた。彼女は人ではなく、神でもなく、どちらかと言えばその外見は獣に近く、けれども実は獣でもない。鳥でもなく虫でもなく、また植物でもない。ただ確かに言えることは、彼女が雌であると言うことだ
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そうして千年が経った。 墓のうちで眠り続けた彼女は目を覚まし、ゆるりと蕩けた肉を眺めた。 瑞々しかった肌はもうどこにもなく、香るようだった肉もない。わずかに溶け落ちそこねた肉はひんやりとからびて、骨の合間にひっかかっている。豊かな黒髪は抜け落ち、けれどそれだけは嘘のように当時の艶を誇っていた。 ほう、と彼女は吐息した。 この髪ならばゆけるかもしれない、そう思ったのだ。 千年の眠りは長く、彼女の人格からあらゆる色を削ぎ落したが、しかし千年の時を経てまだ残るものもあっ
車輪の音が軋む。 車体は夜の漆黒を暴走していた。白昼の穏やかさなど忘れ果て、電車は快速特急顔負けの凄まじい走行をしていた。 フェンスの隙間から臨みやる線路の景色のなんと恐ろしいことか。ぽつりぽつりと間遠に灯った街灯だけが、その証人となるのだった。 いや……もう一人いる。街灯の明かりの輪からほとんどはみ出して、なかば夜闇に擬態し、けれども有機物の気配を消しきれない……それは少女。 まだ十にも満たないだろう、幼さを残す顔立ちに、あどけなさは拭われ微塵も残らない。筆で刷い
亡骸にたかるのは烏。近寄り難きをあえて蹴散らす。 石畳の上に死ぬのは、ひとりの男で、私はその顔を知っている。昨夜、あられもない痴態をスマートフォンのカメラにさらした男は、昨日の熱など忘れ果てたように冷たく硬くなっていた。 薄らかなまぶたは眠っているようなのに、その逞しい体躯はいまやなかば烏の巣となりかけ、内臓を欠き軽やかだ。はみだした腸が長々と地を這い回り、私の靴のそばに力尽きていた。 まぶたを開ければ、優しい闇。そこに眼球はなく、やわらかな眼窩の闇が横たわっている。
若草萌え出ずる頃、朦朧と彼女は起き出す。 冬の間たっぷりと眠りを貪ったせいかかすかに腫れぼったい瞼をもったりと上げて、さあ眼前に映るあなたは誰だったかしらと僕を見る。 おそらく名前さえ急には出てこないのだろう。しかし確かに知っている、瞳はじれったそうにそう告げる。 「あなたは……そうね、小鳥よ。天の鳥。あの蒼天からやって来たのね」 僕は彼女が名前を思い出すしばらくの間を、そんなあざなを与えられて過ごすことになる。 小鳥、と彼女は僕を呼ぶ。 その声音のどんな
町の片隅にひっそりと佇む赤い橋。そこでの待ち合わせは、何故こうも不幸の予兆を孕むのか…… さて、では最後にこの話をしようか。 今よりずっとずっと昔、まだこの橋が今のような造形でなかったころの話だ……その頃も、橋はあった。 形は違えど、やはり赤い橋である。赤というよりは朱色、と言ったほうがその頃の風潮に即すだろうか。橋は小さく、目立たぬものであったが、やはり人々はそこを待ち合わせの場所に使ったのである。 ある主従がいた。 主は女、大層な醜女である。そばに常に影にひ
町の片隅にひっそりと佇む赤い橋。そこでの待ち合わせは、何故こうも不幸の予兆を孕むのか…… さて、こんな話もある。 赤い橋の欄干にもたれるのは、まだ幼さを残す少女である。先ほど不運な事故にあい、とうに命を落としている。のだが、本人はそれに一向に気がつかず、黄昏の陽に呆然と染まりつ、絶えず何かを待っているのだった。 何を待つのか? それは少女にも分からない。死が彼女の記憶を断絶してしまった。待つのはおそらく人だろう。だったような気がする。では、それは誰? その段になる
町の片隅にひっそりと佇む赤い橋。そこでの待ち合わせは何故、こうも強く不幸を発するのか。 ……例えば、こうである。 男は赤い橋の欄干に腰を掛けている。待ち合わせ時間を過ぎても現れぬ女を待ちながら、あと5分だけ待とう、を先ほどから何回繰り返しただろうか。腕時計の長針はじりじりと盤を滑り、あともう少しでぐるりと一周してしまうではないか。 ため息とともに、凍えた指先に息を吹きかける。 季節は冬。 それも厳冬極まった二月……こんな寒空の下、俺をこんなに待たせるとは一体どうい
橋が架かっている。 赤い橋だ。何もそんなしゃれたものではない。ただ昔からあるような、古びた、ぱっとしない橋。 その橋が架けられたころはもしかするとモダンだの何だの言う人があったかもしれないが、今はもう誰もそんなことは言わないし、というより見向きもされない。時代に取り残された、と言うような形容がふさわしい、目立たぬ地味な橋だった。 けれど子供はその橋が好きだった。何やら古ぼけた橋がユニークに目に移りでもするのだろうか、子供らはいつもその橋のたもとで戯れ、時としては待ち合わ