シェア
みぜ
2023年5月2日 20:29
男が嘘をつくのは日常茶飯事のことだった。 友人に、女に、見知らぬ人に、通りすがりの老人に、落し物を拾ってくれた小学生に、彼はいつも気がつけば嘘をついている。呼吸をするより自然なことだ。例え彼が窒息死したとして、しかしその何秒後かには彼の口だけが喋りはじめていることだろう。嘘だけをつらつらと並べ、喋々とする。 嘘を並べ立てるとき、彼の顔は輝いている。いつもはむっつりと押し黙りつぐまれる唇がその
2023年5月3日 20:22
翌朝は、輝かしいばかりの朝陽と共に訪れた。 男は寝不足の目をこすりながら、いつものように玄関の郵便受けへと向かう。 玄関の扉を開ければ、ひとつの小さな小包みが落ちている。白いレースを思わせる華奢な箱に、愛らしい赤色のリボンが巻かれている。 溜息をひとつ。 それを拾い上げると、新聞を取ることも忘れ、男は玄関の中に舞い戻る。たたきにも上がらず、サンダルを履いたまま、小包みを開いた。 幾重に
2023年5月4日 19:59
朝陽のない曇天の中に、けれど前日と寸分変わりない日が横たわっている。 その日も特に出社の予定はない。幸いなことに懐の携帯電話も静まり返っている。男は新聞を取りに、郵便受けへと向かう。 黒々と掻き曇る空が、雨の気配を忍ばせている。 今日は降るかな。 男の眼差しから逃れるように、暗雲を鳥たちが滑ってゆく。 新聞を取るより先に、玄関先、ひとつの箱が目に付いた。 箱はもう小さくも愛らしくもな