OKRの始祖を僕が師匠と呼ぶ理由 (前編)~組織開発日記#9
「人事評価はもういらない」(松丘啓司著、ファーストプレス)という本を手に取ったのは、2017年だったと思います。
その頃僕はTBSテレビの番組制作部門を担当していたのですが、なぜそんな門外漢が興味をひかれたのかといえば、従来の「目標管理制度」にずっと疑問があったからです。
だって、みんな「そこそこ達成できそうな目標」を掲げがちじゃないですか。そして年に一度の評定面談には上司も部下も相当なエネルギーを費やす。もうちょっとなんとかならんかな、という感じだったのです。
松丘さんに電話してっ!
一方で、その本に描かれていた世界。
それは年に一度の面談ではなく、継続的に1on1ミーティングでコミュニケーションをとり目標を共有。心理的安全性を担保しながら互いにフィードバックし、チームエンゲージメントを高めていく、新しいパフォーマンス・マネージメントの手法です。
「理想的!」と思いながらもあまりにも現実との乖離が激しく、ため息と共に、そっと本を閉じたのでした。
その数ヶ月後、グループ7社を合併させた「新会社」の社長の内示を受けるとも知らず・・。
2019年に新会社「TBSグロウディア」がスタートし11月にオフィスも移転、2020年10月より、会社のビジョン策定に入ったことは、これまでにお伝えしたした通りです。
当時の人事部長サンジョーさんが僕に「1on1マネジメント」と言う本を渡してくれたのは、ちょうどその頃。「社長、この本なかなかいいですよ。読みました?」
著者をみると「松丘啓司」とあります。「あれ?人事評価いらないっていう、アノ人じゃん!」となり、読めばまた前著の続編と言うべき素晴らしき本。ちょうど1on1導入を考えているときでしたので、「すぐにこの松丘さんって人に電話してっ!」と言ったのが、アジャイルHRさんとのお付き合いの始まりでした。
ということで、前回(組織開発日記#8)書いた、1on1の導入に伴走してくれたのは、松丘さんが代表をつとめるアジャイルHRの皆さんだったのです。
2021年1月からアジャイルHRさんによる1on1導入研修を全マネージャーが受講、2021年4月、全社で1on1ミーティングを開始しました。
グロウディアにとってはちょうど「ビジョン」が固まったタイミングでしたので、その高いビジョンを実現させるために、どのような戦略目標を掲げ、実行するかと言う段階です。
従来の「上から目標が落ちてくるだけの目標管理=MBO」ではなく、松丘さんが推奨していたOKRと言うパフォーマンス管理手法を導入したのも、TBSグロウディアにとってはごく自然な流れでした。
OKRとは何か?
OKRとは、「Objectives & Key Results」の略。日本語になおすと「目標と主要な成果」となります。
前回ご紹介した元インテルのCEO、アンドリュー・グローブが行っていたパフォーマンス管理手法で、その後投資家ジョン・ドーアが当時まだスタートアップだったグーグルに持ち込み、グーグルの爆発的成功によって世界で注目されるようになりました。
そのあたりの経緯は、「メジャー・ホワット・マターズ」(ジョン・ドーア著、土方奈美訳、日経BP)に詳しく書かれています。
OKRの画期的なところはいくつかあるのですが、その前に当社の例を挙げながら、それがどんなものか簡単に説明したいと思います。
上は、当社の最上位(トップ層)のOKRのひとつです。(実際のものとは少し変えています)
OKRは、まずO(Objective=目標)を定めます。この場合は会社の最上位の目標のひとつですので、当社のビジョンの実現に直結するものでなくてはなりません。
その上で、KR(Key Result=主要な成果)を設定します。KRの要件は、「何ができれば、O(Objective)が達成できたと言えるのか?」ということです。そして、このKRには「測定可能でなくてはならない」という厳格なルールがあります。上の例の1~3のKRは、すべて定量目標となっているのがおわかりだと思います。
定量目標以外でも、「いつまでに、何をやる」といったマイルストーン型でも可です。とにかく、測定可能がKRの絶対条件。これが、OKRの1セットです。
組織のビジョンに沿って、まず上位のレイヤー(当社の場合はトップ層=役員・本部長レベル)がOKRを作ります。それをうけてミドル層(『本部』の下の『部』または『チーム』レベル)が「自分たちのチームは、どのトップ層のKRに貢献(ミート)するべきかを議論し、OKRを定めます。
さらに、その下のレイヤー(メンバー層)は、ミドル層のOKRを見ながら、それぞれのOKRを、上長との1on1を通じて作成するのです。当社の社員は原則として全員がそれぞれのOKRを持っています。
従来の目標管理(MBO)とはココが違う
OKRを設定する際のポイントは、「目標は与えない」ということにあります。
つまり、メンバーは上位のOKRを見ながら、自分が何をやりたいか、何によって貢献すべきかを決めていくのです。
もちろん、会社として部下にやって欲しいミッションはあります。大事なことは古いピラミッド型組織にありがちな、「会社の目標はこれだから、君、これやって」っていうプロセスではないということです。あくまで、上長は支援する立場なのです。
OKRでは、トップは目標を掲げますが、ミドル層やメンバー層は、それらを見ながらそれぞれが貢献できる上位のKRに主体的にミートしていくのです。上の図で、ミドル層やメンバー層から、上に矢印が向いているのはそういう意味です。これが松丘さんのいうOKRの特徴のひとつ、「トップダウンとボトムアップの融合」です。
もう一つの特徴は、「ストレッチ」です。
ストレッチとは、引き延ばす。つまり、よりアンビシャス(野心的な)目標が奨励されます。そのかわり、達成度をそのまま評価の基準にしないのです。これが、従来の「目標管理=MBO」と大きく違う特徴です。
ムーン・ショットという言葉があります。月まで届くくらい高い目標ということです。グーグルの成功は、このムーン・ショット文化にあると言われます。
僕自身は子どもの頃から、「大きな目標を掲げ、それを冷笑するオッサン達を見返してやる!」とノリで頑張るタイプでしたので、このムーン・ショットなど、OKRの思想は、実に性に合っているのです。
OKRの導入後、当社の研修で「メジャー・ホワット・マターズ」を読んだマネージャーのノリコさんは、こう感想を述べています。
ごく普通の女性が、「100メートル走東京都で1位」という目標を達成するためには、単にトレーニングするだけではなく、これまでのライフスタイルをすべて変えないと達成できないでしょう。
OKRの精神は、「高い目標を掲げ、それを達成するために、これまでのやりかたや発想をすべて見直す」ことにあります。
実際当社にも、「会議のやり方や頻度の見直し」「情報共有の工夫」「ノウハウ共有やスキルアップのための自主勉強会」など、さまざまな取り組みが生まれました。またそれらを実行したチームが高い目標を達成するという事例が複数あり、社長賞などの対象となっています。
他にもOKRの特徴はいくつかありますが、ここでは割愛します。とりいそぎ僕がいえることはふたつ。
まず、OKRの精神が知りたければ「メジャー・ホワット・マターズ」を読むこと。シンプルに、ビジネス書として秀逸な本です。
さらにOKR導入に興味があれば、「松丘さんに電話してっ!」(以上、個人の見解です。)
OKRの導入にいたる諸々のことは、アジャイルHRさんのインタビュー記事としても掲載されていますので、よろしければそちらもご覧ください。
次回は、「OKRがTBSグロウディアに何をもたらしたのか?」というテーマでお伝えします。
(つづく)