マシュマロ・テスト 成功する子、しない子
先延ばしにする能力
意志の力の本質や存在について意見は分かれるが、そんなことにはおかまいなく人々はその力を揮い、苦労してエベレストに登り、何年も己に鞭打って厳しい練習を重ね、オリンピックへ出場する人がいる。
その一方で、同じような立派な心積もりで始めながら、やり通せない人もいる。
彼らはどうやって成し遂げるのか?
マシュマロテストでマシュマロを今すぐ食べたいのを、我慢できた子供とできなかった子供の違いを見ていく。
上手く先延ばしにできる子供は、気をそらし、自分が経験している葛藤とストレスを和らげるために、ありとあらゆる工夫をした。
例えば、マシュマロの事を考えないように歌を歌ったりマシュマロを見ないようにすることで、辛い待ち時間を過ごした。
半世紀以上前、カナダの認知心理学者はあらゆる刺激が持っている、相反する二つの面を指摘した。
まず、魅力的で欲求をそそる刺激には、人を夢中にさせ、興奮させ、動機づける特質がある。
だからマシュマロを食べたくなり、食べれば快感が得られる。
一方、刺激から認知的に捉えられる、非情動的な特徴についての情報を与える、叙述的な手がかりも得られる(マシュマロは白くて丸く、柔らかく、食べれるなど)。
だから刺激が私たちに与える影響は、その刺激を私たちが頭の中でどのように表象(思い描く)するか次第で違ってくる。
子供たちは、ご褒美のクールな特徴に注目するように仕向けられると、ホットな特徴に注目するように仕向けられた時の倍の時間、待つことができた。
自制のおおもと
子供が発達させる自制の戦略や愛着は、母親の子育てのスタイルが違えば変わるものなのだろうか?
実験の結果、子供の選択と、自由意志があるという感覚を後押しすることで自主性を奨励した母親の子供は、のちにマシュマロテストで成功するのに必要な種類の認知的スキルや注意コントロールスキルが最も優れていることが分かった。
あらかじめ組み込まれているのか?
マウス実験は昔から人気がある。
なぜなら、マウスのゲノムは、驚くほど私たちのゲノムに近いからだ。
そこである実験を行った。
一匹のマウスは遺伝的に内気になるように交配されており、臆病な行動をとり、ゲージの隅に隠れる。
それとは大違いなのが、新奇なものを探し求め、比較的大胆になるように遺伝的に交配されているマウスだ。
この実験は遺伝的に大胆で、新奇なものを探し求めるマウスが、内気で臆病な母親のいる環境に置かれたときどう行動するかテストした。
すると、臆病な母親の下で育った遺伝的に大胆なマウスは、時間が経つにつれ、遺伝的な内気なマウスに似てきたのだ。
ここから二つの明確な結論が浮かび上がってくる。
まず、遺伝的な資質は、行動の重要な決定要素であること。
だが、それに劣らず重要なのが、幼いころの、母親に関連した環境だ。
その環境は、遺伝子がどう機能するかに強力な影響を持っている。
成功の原動力「できると思う!」
幼いころにホットな目標を追求する際、自発的に克己心を発揮する能力(ポジティブな自己信念)が、一生を通して成功し、潜在能力を最大限に活用するのを助けてくれる、強力な利点を子供たちにどうやって提供するかを示す。
自制能力は、良い人生を築くためには不可欠な要素だが、単独では機能しない。
ポジティブな自己信念とは、自分の行動を決定するにあたり、能動的な行為者となれるという信念や、自分は変わったり、成長したり、学んだり、新たな難題を克服したりできるという信念だ。
このような恵まれた「資源」は、各自の自分についての信念であり、外部の評価でも、達成度や力量の客観的なテスト結果でもないことは、是非とも理解しておかなければならない。
ストレスのネガティブな作用が、本人がそのストレスをどう認識しているか次第であり、誘惑の影響が、本人がその誘惑をどう評価し、どう頭の中に思い描くか次第なのとちょうど同じで、私たちの能力や実績や将来の見通しがもたらしうる健康上の恩恵は、それらを私たちがどう解釈したり評価できたりするかにかかっている。
要は、幼いころに成功体験や自己効力感を自覚する体験をした人は、その後、根気よく目標を追求し、成功に対する楽観的な見通しを育み、成長の過程で避けられない挫折や失敗や誘惑に対処する意欲や能力が高まる。
『まとめ』
私たちの行動の原因を、環境やDNA、無意識、お粗末な子育て、あるいは進化、プラス偶然に帰す。
だが最終的には、因果の連鎖の末端では、各個人が行動の主体であり、いつベルを鳴らすかを決めるのだ。