アルジズの夏の推薦図書/ Algiz's summer reading
アルジズです。草野原々の『最後にして最初のアイドル』を読みました。
あちこちに振り回される移動の感覚が、非常にスピーディかつ新鮮で、面白かった!
全体の印象は、ピンチョン味に溢れている。
ほかに似ていると感じたのは、「彼だけが、本物の中二病である」と宇野常寛に言わしめた、〈現代の魔法使い〉たる、落合陽一の熱気に浮かされたような語り口。
それから、法華経や、華厳経を連想させる修辞に満ちていて鮮やかだ。
経文の世界では、時空のスケールの想像の及ばなさを強調するときに、とにかく延々と類似の表現を重ねていく。想像を絶する長い時間を表すのに五劫という表現がある(五劫の擦り切れの五劫)。三千大千世界だと、一つの世界を千倍し、また千倍し、さらに千倍した大きな世界のことらしい。
で、原々の小説世界は、この種の表現だけで成り立っているといってよく、ぽーんとこっちへ放り投げられたと思ったら、次は逆方向へぽーんと放られる。広すぎるホラ話空間内を振り回される。
一方で、生々しい解剖学的イメージだったり、微生物学的なミクロな方向へも、ぎゅーんと注意を向けさせられる。それから、古生物学的イメージに、科学史みたいなやつ、もちろん、宇宙論も。自然史博物館をいくつもハシゴしてまわっている気分。
あと、懐かしきミーム論。わたしがミームという概念を最初に知ったのはリチャード・ブロディのこの本経由だ。↓ 参考までに。
原々の創造した〈アイドル〉は、哲学の分野でいえば、唯物論とかリゾーム論まで横断しながら、自らの〈アイドル性〉を散種していく。
あー、すごいなぁ。〈アイドル〉は決して死なない。宇宙一、タフだ。というか、必要とあらば宇宙だってゼロ→イチで創ってしまう。
とかなんとか、一切合切、五劫の擦り切れたるアイドル史は、ほかでもない、あなたの物語なんだよ。
そう言って、〈アイドル〉はにっこり微笑み、私たちの〈アイドル性〉を起動させるべく、スリープを解除しにかかる。
・・・あなたがもし、首尾よく起動させられたなら、まだ終わっていない夏休みの自由研究が捗るかもね!