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【短編小説】Tokyo

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私と東京についての物語
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#ジャズ

社会人生活1日目⑧

社会人生活1日目⑧

不安と疑いにまみれたブラック出版社の仕事は始まった。

大柄で温厚そうなスーツ姿の男性が10時ちょうどに出社してきた。
40代くらいだろうか。
見るからに営業の仕事をしている事は、社会経験がない私にも察する事ができる。
ここ、若者向けストリートスナップ雑誌の出版社では、彼の風貌は明らかに浮いているように見えた。
私は、まだスーツ姿の男性を目の前にする事に慣れていない。失礼のないように、そして、なる

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音楽と大学生活⑥

音楽と大学生活⑥

『東京へ行きたい・・・』
あの日以来、気付けばいつもこんなことばかりを考えていた。





私が入学した音楽大学は、地方の小さな大学ではあるものの、
周りの学生は幼少期から一流講師のもと戦ってきた音楽エリートばかりだった。

母『親の金をなんだと思ってんの?音楽はもう大学までにしてちょうだいよ!ウチにはこれ以上アンタに払い続けれる金なんかないから!!怒』

いつの日か、木村拓哉と山口智子の

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答えのない答え合わせ⑤

姐さんとバンドマンHに挟まれ手を繋ぎ、ホストクラブから居酒屋へ戻る頃、私は、ライブと打ち上げに巻き沿いとなった友人へ、謎の優越感を感じていた。
しかし、友人へ目を向けると、
もともと大人の社交場に慣れていたのか、
それとも、私がホストクラブでカラオケ苦戦中に、ここでのコミュニケーションスキルを掴んでしまったのか、
私が見た事ない振る舞いを披露しながら、アーティスト達と仲良く会話している。

つづけ

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初めての…④

初めての…④

酒焼けした声で歓迎するベテランホスト
煙草の匂いがキツイ姐さん
そして、芋っぽい学生の私

姐さんに手を引かれ到着した場所は、午前3時のホストクラブだった。

姐さん『たまにさ、1人で飲みたい時ここに来るのよ。こーゆーのも良いでしょ?』
姐さんは私に向かって言った。

私『そうですねぇ!』
咄嗟に言ったが、私の中にはこれ以上の言葉を持ち合わせていない。
言葉に合わせて、私はとにかく良い子を演じた。

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突然の巡り会わせ②

突然の巡り会わせ②

出会いって不思議なもの。

神様のはからいで、人と人は巡り会うの…?
それとも、神様の暇つぶし…?

憧れの男性DJへファンレターを送ってから、半年は過ぎた。
もちろん彼からの返事はなかった。
彼の元にちゃんと手紙が届いたか心配だった。
しかし、私はかなりの熱量で書きあげ、勢いのままポスト投函したので、赤面モノの思い出として心の鍵付き秘密部屋へすべてをしまい込む事にした。

いつものように退屈な学

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キオク・・・①

キオク・・・①

小さな頃、家の中が私の世界そのものだった。
少し成長すると、近所の公園や学校が私の世界になった。
思春期になると、30分先にあるショッピングセンターやバスで1時間ほど離れたところにあるPARCO、
これがこの街に生まれ育った私にとっての、大きな世界だった。

学校を卒業したら、PARCOの近くに住んで、
お洒落な人達と毎晩お洒落な音楽が流れるカフェバーで、誰かの歌詞に出てきたカルアミルクという甘い

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