石のなかの王子さま
※子ども時代の記憶を書いたエッセイです。
あれはまだ幼稚園児だったロッタが直面した、恋ともつかない悲恋物語。
当時、よく遊んでいた公園があったのだが、そこは道より少し高い所に造られていて、階段を上がって入るようになっていた。その階段の両脇は石造りの壁。ベース型の石で組まれていた。
小さい私は、その前を通るたびなぜかいつも視線を感じ、友だちと遊んでいるときでも、何となくその気持ち悪さにバッと振り返ったりしていた。
はて?自分たち以外に人影はなし。
首をかしげながら、棒読みで「わぁー」とみんなと駆け回ることしばし。
しかしついに、その正体を突き止めるに至る。
また石の壁の前にきた。そしていつもの違和感。
ゆっくりと横を見やると、静かに訴える顔がひとつ、そこに浮かび上がっていた。
ひぃっ!と飛び上がりそうになったが、恐怖のあまり実際は固まっていたと思う。
種明かしすると、それは壁の石のひとつが、彫りの深い外国人ぽい顔にみえたのだ。ベース型の石が輪郭だとして、そのなかに目鼻口に見える配置で“削れ”や“欠け”が生じた人面石だった。
私は遊び仲間に「ねえねえ!この石、人の顔みたいじゃない?」と自分の発見を興奮気味に教えたのだが、みんなはさほど興味を示さず、すぐに公園へと入ってしまった。
怖いもの見たさからか?私は引き込まれるようにその場に残って人面石を凝視した。
無表情のなかにもほんのり憂いを帯びた、モアイ像にちょっと似たお顔。
「話せる?」
ちびロッタは石に話しかけた!
「………。」
当然、返事はない。
めげずに今度は念力で話しかけた。
いや、いま思えばただの妄想なのだが。
「あなたは、閉じ込められているの?」
「………。」
「そう、声も出せないのね?」
そしてロッタは、あるストーリーを勝手に作り上げ、自分自身で納得した。
「なるほど…あなたは魔法で石にされた王子さまなのね」
「………!?」
「わかったわ、私が助けてあげる!」
「………???」
当時、高橋真琴先生のお姫さま絵本シリーズを愛読していたロッタは、すべての事情を飲み込んだ。
つまり、こういうときは、これなのだ!
ちびのロッタはおもむろに石の壁に駆け寄り、グンと背のびをした。そして己の小さな唇を、人面石王子の、たぶんここが口であろうという部分へと押し当てたのである。
すると、あたりは突然ピンク色の光に包まれ、目の前の人面石はみるみる人間のかたちへと変貌していった!
「王子さま!」
「ロッタひめ」
「本当のあなたは、とんでもないハンサムさんだったのね」
「ありがとう。ロッタひめのキスの力で、わたしは元の姿に戻ることができました」
「やっぱりね、そうだと思ったんだ!絵本たくさん読んどいてよかった」
と、ひととおり白昼夢にうっとりしたあと、ロッタはスンと我に返った。
唇に付いた砂粒を指で払いながら、周りに人がいないか確認する。そうして小さな私は、何事もなかったかのようにトテトテと家へ帰った。
それから何度かちゅーチャレンジを試みてみたが、とうとう石のなかの王子さまを救い出すことはできなかった。
「あーあ、誰かのお姫さまになってみたかったな」
と、ティアラを頭にのせ、フリフリのドレスを身に纏った自分を想像して溜め息。
幼き頃の、ちょっぴり悲しい恋?のお話である。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました🍀
🌼みんなのフォトギャラリーより
森さやかillustraterさんのキュートな絵を見出し画像に使わせていただきました!
🌟ピリカさんの『曲からチャレンジ』でご紹介していただいたスピッツの記事と、前回のかき氷の記事にありがたきお知らせを頂戴しました。
読んでいただけるって、本当に幸せなことです😊
ありがとうございます!❤️