【イタリア日記④】2024年10月(1~10日)
1日(火) ア・ラ・モード
事件が起こりました。
これらは、バールで注文したイチゴとカスタードクリームのパイです。この二つは、似て非なるもの。左のやつにはイチゴの切れ端が4つ乗っていますが、右のには3つ... こういうのが戦争の火種になるのです。
我がM国は軍事国家ですが、このようなとき、アンは必ず条件のいい方を僕にくれます。そんなわけで、相手によっては流血戦に発展してもおかしくないこの事案は、平和的に解決したのでした。
この日、アンはたくさんの雑用をこなさなければならず、「一日中君を家で一人にしておくわけにはいかない。一緒に連れて行くけれど... 大人しくしているんだよ。いい子にしていたら夜はマクドナルドに連れて行ってあげるから」と言うので、やつに同行することに。
アンは僕が退屈しないよう、用事の合間合間に、観光地へ連れて行ってくれました。
こうして、その夜。王の命令に忠実に従った僕は、褒美として、マクドナルドではなく、なんとオールド・ワイルド・ウェストに連れて行ってもらったのです!
食後、ドルチェのメニューを手に取ると、アン(←また太った)が「俺はやめておくよ」と言います。ウェイターが料理の皿を下げに来たタイミングでデザート注文すると、やつは、
「スプーンは二本お願いします」と、何の前触れもなく言い添えました。
ウェイターが去ったあと、僕が、
「ふざけんな、あんなことしたら彼氏と彼女だと思われちゃうだろ!」と言うと、アンは、
「君が俺の彼女...?」と、嫌そうな顔をします。
「は? 逆だよ。お前が僕の彼女だろ!」と言い返した瞬間、アンの向こう側の席に座っていた男とふいに視線が交差し、その直後、慌てて目を逸らされました。
チョコレート ミックスベリー ソースがけ
アイスが乗った 温ブラウニー(?)
2日(水)
ファエンツァで秋雨前のミーティング
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
2日(水) 休息の時
この日の予定は、ちょっとした雑用と、宅配ピザのアルバイトだけ。そこで、午前から午後の早い時間にかけてを、休養に充てることにしました。
アンドレアと二人、車に乗り込み、バール・ミーティングへ向かいます。
朝食後、バールを出て、車を走らせていると...
Lentamente fa due passi il cavallo.
Serve ogni tanto un bel intervallo.
Galoppa libero cavallo bianco 🦄
Sei puro e candido come ali al vento
(日本語訳)
馬がゆっくりと散歩する。
時折、休息も必要だよね。
白馬が自由に駆ける 🦄
君は無垢で穢れなく 風の中の翼のようだ
僕たちは道端にルノーを停め、馬を眺めながらこのような詩を詠んだのでした。
3日(木)
秋雨や次のタトゥーの打ち合わせ
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
3日(木) 好きなものは好き
アン宛てに、アマゾンから荷物が届きました。
アンは、図体はデカいけれど、かわいいものが大好き。そして、自分がいいと思ったものは、世間体を気にすることなく、堂々と買ったり使ったりします。
実は、やつのそういうところ(かわいいもの好きなところではなく、体裁を気にしないところ)を、僕は密かに、かっこいいな、と思っています。
何が好きであろうと、それがどんなに自分のイメージと合わなかろうと、人に迷惑さえかけなければ、何の問題もないはず。そんなことは分かっているのに、どうしても考えと行動が一致しません。人目を気にしながら、誰に言うでもなく「他人にどう思われようが構わない」と嘯くたび、自己嫌悪に陥るのです。
宅配ピザのバイト前、アンと二人で本屋に立ち寄ったときのこと。ハロウィン関連の商品を集めた一角で、あるものが目に留まりました。
ペンを手に取り、
「なぁ、このゴースト、蓄光なんだって」と言ってから棚に戻すと、アンが、
「欲しいんだろ。買いなよ」と言いました。
その夜、寝室にて。高ルーメンのLEDライトでゴーストにダイレクト照射し、電気を消すと...
4日(金)
降るたびに警報が出るもうあきた
(季語:あき=秋[秋])
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
4日(金) 下戸でよかった。本当によかった。
雨が降ったときのアンのルーティンは、近所の川を見に行くことです。朝食後、例によってMontone川を見に行きました。
話は変わりますが、アンのお父さんは不動産関係の仕事をしています。アンは今まで、自分の仕事をしながら、それを手伝っていましたが、今年から父親の仕事の一部を全て引き継ぐことになり、以前よりもアン自身が物件を見に行くことが多くなりました。この日も、とある田舎の一軒家を見に行った(僕も手伝った)のですが... そこで衝撃的なものを目の当たりにしました。
※以下、知っている人が見ればどうということはないのでしょうが、知らない人が見るとすげぇ気持ち悪い写真が掲載されています。ご注意ください。
物件の地下にある醸造室へ降りていくと...
...どうでしょう。腐ったブドウが大量に入ったバケツの周りに、雪のようなものが舞っているのが見て取れますね。これは何だと思われるでしょうか。
実は、虫なのです。小さな虫が、生ゴミみたいなブドウの周りを、無数に飛び回っているのです! (写真には写らなかったけれど、実際はこんなもんじゃない。さながら虫系モンスターのパニック映画のよう)
これを見た瞬間、僕は走って逃げましたが、なんと、アンは物件の持ち主と、このバケツの前で談笑を始めたのです。
二人は、数分後、話を続けながら醸造室から出てきました。「母屋に書類を忘れたから取りに行ってくる」という一方を見送りながら、アンは僕に言います。
「どうしたんだ、急に」
「『どうしたんだ』じゃねぇよ、何なんだよ、あの虫! あんなところで喋ってたら、絶対口の中に入ってくるだろ、気持ち悪ぃ!」
「気持ち悪くないよ、ワインを作っているんだから虫がいるのは当然だろ」
「当然...? 髪の毛一本混入することすら許されない飲食物製造現場にハエが湧いてるのが?」
「ハエじゃない、あれはワイン虫(?)だよ。彼らがワインを作っているんだ(??)」
5日(土)
週末だ!今日の夜食はハンバーガー!
(季語:夜食[秋])
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
5日(土) OWM
夜食にハンバーガーを食べました。
ところで、この日の日記のタイトルは『OWM』。本来なら「OWA」とするべきところですが、Mをひっくり返すとWになるという理由で、アンのファーストネームの頭文字であるMを取り、『OWM』としました。
L'hamburger con le ali di lattuga...
"Sembra buono!" lo stomaco mio gruga.
Mamma mia che bello sto panino 🍔
Che peccato... ce n'è soltanto uno
(日本語訳)
レタスの翼を持つハンバーガー...
「美味そう!」 腹が鳴る。
なんて素晴らしいんだろう このハンバーガー 🍔
なんて残念なんだろう ひとつしかない
(夕食じゃなくて夜食だし、パティが250グラムもあれば一個で十分だと思うけど...気持ちはわかる)
6日(日)
冷ややかや暖を取ろうとスタジアム
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
6日(日) 友達の友達
腹を壊しました。
...それはそれとして、ボローニャ‐パルマ戦を観に、男四人でスタジアムへ。その内訳は、僕とアンドレア、そして、やつの友人アドリアーノ。ここまではいつメンなのですが、残る一人はアドリアーノの友達で、僕もアンドレアも会ったことがありません。
定刻通り待ち合わせ場所に四人が揃い、軽い挨拶を済ませます。アドリアーノの車一台でボローニャへ向かうことになり、ルノーに置いてきた荷物を取りに行くため彼とその友人から離れたとき、僕はアンドレアに言いました。
「なぁ、アドリアーノの友達ってさ、"Il Volo" の...」
「ジャンルーカだろ。似てる。俺も思った」
「あいつも歌うのかな?」
「声は全然違うし、歌いそうな感じはしないけど... それより見たか、あの胸板。背は低いけど、すごくいい体をしてるのがニットの上からでも丸わかりで... 絶対に筋トレしてるよね」
「な。親からもらった体に手を加えるなんて最低だよな。しかもイケメンのくせにいい体まで欲しがるとか、神の怒りに触れればいいのに。お前なんか最近おっぱい出てきたけど、ちゃんと受け入れてるもんな」
「受け入れてはいないよ。そろそろ何とかしないとまずいと思ってる。さもないとパンツを身につけずに出かけることに...」
「サイズアップすればいいだろ。そんなことより、あのジャンルーカ、もしかして僕より背低い?」
「いや、それはない」
アドリアーノがハンドルを握り、助手席にジャンルーカ(noteに登場する友達の名前は全てセカンドネームか偽名ですが、こいつに関しては偽名を考えずに済んだので良かったです)、後部座席に僕とアンドレアというフォーメーションでボローニャへ向かい、観戦前にスタジアム近くのレストランで昼食をとりました。
食後、レストランを出てスタジアムへ。
退屈な前半が終わり、ハーフタイム中、売店へ飲み物を買いに行ったときのことです。
「おぉ、Ciao!」と、見知らぬ男が人混みを掻き分け、アンドレアに歩み寄ってきました。
やつは顔が広いので、一緒に歩いているとこういうことがよくあるのです。
ただ、このときは少し驚いてしまいました。なぜなら、その男が明らかにヤク中だったからです。
アンドレアにもこういう友達がいるんだ...と思いつつ静観する僕の横で、二人はやたら親しげに抱擁を交わし、けっこう込み入った話で盛り上がっています。
そのうち、ヤク中と不意に目が合ったので、「初めまして」と言うと、彼は「初めまして。こんにちは」と、僕に挨拶を返し、さらに、熱意のこもった抱擁と握手を押し付けた直後、その手を離すことなくアンドレアに視線を戻します。そして、「君の彼女か? 中国人?」と尋ねつつ、答えを待たずに、なんと、僕の手の甲に口づけをし、なぜか、「ごめんね」とアンドレアに謝りました。
謝った相手が「いや、別にいいんだけど、彼は友達で、日本人なんだ」と言ったにもかかわらず、男は、「日本の女性は貞節だって聞いたよ」とかなんとか、アンドレアに勝るとも劣らないマシンガントークを繰り広げ始めました。また、アンドレアもいつもの調子で撃ち返すので、僕が口を挟む隙などありません。
ただ黙って銃撃戦が終わるのを待ち、去っていく男の背中を見送りながら、僕は言いました。
「誰、あいつ」
「さあ」
「え?」
「俺を知り合いと勘違いしたみたいだね」
「... お前の友達じゃないの?」
「見かけたことすらないよ」
「だったら何であんなに仲良さそうにしてたんだよ!」
「だって、人違いをしたと思わせたらかわいそうだから... それに、ほら、俺の方が彼を忘れてるっていう場合も、絶対にないとは言い切れないし...」
「...財布確かめろ」
...このときは事なきを得ましたが、抱擁の瞬間に財布を抜き取るのはよくある手です。読者の皆様はくれぐれもご注意ください。
7日(月)
スナック菓子じゃがいものやつどこ行った?
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
7日(月) 四位一体
この日は、昼食後から夕方まで、アンは父親と仕事に出かけました。
家に残った僕はポテチを食いながら本を読もうと思い、キッチンの戸棚を開けます。すると、どうしたことでしょう! ジャガイモのやつが一つもなく、全てがレンズ豆やエンドウ豆やひよこ豆のやつにすり替わっていたのです!
ジャガイモでできていなければ、もはや Patatine ではありません。しかし、なぜか "Patatine" という言葉は、スナック菓子全般を指すのです。ですから、アンが帰ってきても、「お前、ここにあった Patatine どこへやったんだよ!」とは言えません。だから、僕が Patatine をどこかへやることにしました(?)
...ちょっと何を書いているのかよく分からなくなってきたので、事の顛末(?)はこれくらいにして、夕食後。近所のジェラテリアへ行きました。
La prima volta, cono al cioccolato.
Diventa molto in più buono gelato!
È molto bello cono al cioccolato 🍦
E il sapore ? Dolce un po' salato
(日本語訳)
初めてのチョコレート・コーン。
ジェラートが格段に美味くなる!
チョコレート・コーンはすごく美味い🍦
味は? 甘くて、少ししょっぱい
(しょっぱくはないと思うけど..."amaro" だと Assonanza になっちゃうもんね)
8日(火)
稲つるび雨の面接明日は晴れ
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
8日(火) 業務スーパーの成型肉みたい
「面接って、短時間でもすげぇ疲れるよね。あーーー腹減った」
「面接受けたのは俺なんだけど。君は車で寝てただけだろ」
...というわけで、アンのバイトの面接帰り、チェゼーナの (Ristorante al) Binario 27 に、昼飯を食いに行きました。
Binario 27 は、14ユーロで『その日のメニュー』(下の画像)から、
・第一の皿
・第二の皿
・付け合わせが選べ、
パン、水、ワインなどの飲み物、レモンシャーベットが付いてくる、めちゃくちゃ美味いレストランです。
「ストロッツァプレーティとラヴィオリ、どっちを選べばいいか分かんないから、どっちも注文していい?」 ※プリーモ(6ユーロ)もしくはセコンド(8ユーロ)のみを注文することもできます。
「ダメだよ。明日はグイードのところへ行くのに、また腹を壊したらどうするんだ。プリーモはその二つを頼んで、半分ずつ食べよう」
「じゃぁセコンドは鮭の雑草焼きとハンバーグ、両方注文していい?」
「だからダメだって。あと、『雑草焼き』じゃなくて『香草焼き』だろ」
...というわけで、料理を注文し、
「"metà per uno(半分こ)" の意味は分かってるな?」とアンから念を押され、それぞれ半分食ったら皿ごと相手に渡すスタイルで食事を始めました。
そして、二皿目のセコンドで事件は起こりました。
ハンバーグを一口食べ、僕はアンに言いました。
「なぁ、これ...」
僕の表情を見て察したアンも、ハンバーグを食べます。
「...おかしいな。毎回、どれを選んでも美味いのに... 何の肉?」
「メニューには牛って書いてあるけど... 牛っぽくないよね」
「...ねずみだ」
「...は?」
チェゼーナ繋がりで、この日の十一音節詩[↓]
Sarebbe bella fosse bianconera ! ⚫⚪
La coccinella 🐞 invece è rossonera !
Farà vincere il Milan coccinella.
La tredicesima sarà pur bella.
(日本語訳)
白・黒⚫⚪だったらいいのに!
でもテントウムシ🐞は赤・黒!
テントウムシはミランを勝たせるだろう。
第13節はきっと素晴らしいよ。
9日(水)
25℃秋日のカザルボルセッティ
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
9日(水) 情熱のストルネッロ
アンドレアと二人、カザルボルセッティに住むグイードを訪ねました。
世間話もそこそこに、男3人でルノーに乗り込み、ショッピングモールへ。
まずは、ペットショップに立ち寄りました。
飼い猫用のおもちゃを探すグイードの横で、なぜかアンも真剣な眼差しで爪とぎの付いたおもちゃを選んでいます。気に入ったものが見つかると、やつは、
「これ、どうだろう?」と、僕に言いました。
「猫飼ってないのに何に使うんだよ」
「機嫌が悪いときは物にあたらないで、これをひっかくといいと思うんだ」
...まあ、それはともかく、その後、靴を見たり、バールに寄ったりして、再び車に乗り込み、近くのレストランへ向かいました。
Oh, la passione!
È saporita:
dolce e aspra, mi fa avere fame muta,
il radicione della mïa vita!
(日本語訳)
おお、情熱よ!
甘く、酸っぱく、
味わい深く、物言わぬ渇望を抱かせる、
我が人生の根幹よ!
10日(木)
野分だつ二個目のタトゥー旅心
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
10日(木) 二個目のタトゥーを入れながら
10日(木)
明日は再びカザルボルセッティで...
魚介類サフランライス褒美メシ
エミリア・ロマーニャ州、アンの自宅にて執筆
『【イタリア日記⑤】2024年10月(11日~)』に続く...