令和のダンテ
日本時間午前5時半ちょっと前。今日も横浜の実家からイタリアにいるアンドレアとZoomを繋ぐ。僕が、
「おはよー」と言うと、アンドレアは、
「20分の遅刻だ。俺は9時(イタリア時間21時)から待ってたのに」とため息をついた。
※この記事は、日本人の僕とイタリア人の友人アンドレアがイタリア語で交わした会話を、日本語に訳したものです。
ほぼ会話のみで構成されているので、どちらの発言であるかを明確にするため、僕の台詞にはL、アンドレアの台詞にはAを、「」の前に付けてお送りしたいと思います。
L「別にいいじゃん、ちょっとくらい...」
A「『ちょっとくらい』じゃない。いつも言ってるだろ。15分までは許すけど、それ以上は立派な遅刻だって。で、人を待たせたらなんて言うんだっけ?」
L「違うの、聞いて! ちゃんと5時10分前には起きたんだよ。だけど、水を飲もうと思って、キッチンへ行って冷蔵庫を開けたら、コンビニのシュークリームとかエクレアとかがいっぱい入ってたの。昨日の夜にはなかったのに。弟は昨日、僕が寝た後に帰ってきたみたいだから、きっとあいつが買ってきたんだ」
A「...それと遅刻とどういう関係があるんだ」
L「紅茶いれて、それ食ってたらこんな時間になっちゃった」
A「また昇太くんが買ってきたドルチェを勝手に...」
L「僕が兄貴なんだから別にいいだろ... っていうか、むしろ、これは兄の優しさなの。あいつは今月中旬にチョコレートを死ぬほど食わなきゃいけないんだから、今からあんなの食べてたら、月末には糖尿病になっちゃうだろ。そうなったらかわいそうだから、僕が代わりに食べてやったっていうわけ」
A「『チョコレートを死ぬほど』...なんで?」
L「今月はバレンタインデーがあるだろ。今日からもう2月だよ」
A「あぁ、なるほど...イタリアはまだ1月31日の夜だけど...明日から2月か。早いな...」
L「な。ところで、月が替わるとさ、僕、kaekoikさんの記事のこと考えちゃうんだけど... ねぇ、ちょっとだけnote開いていい? 彼女の新着記事が上がってるかどうか確認しないと、このあと集中して勉強できない」
A「...いいけど、そっちだって、1日の早朝だよ。いくらなんでも、まだ...」
L「そうだけど、kaekoikさんって多分早起きだもん。初旬に投稿することも多いし、もしかしたら... あ! すげぇ! ほら、見て(↓)、もう載ってる!」
A「えっ? 俺も読みたい。リンクシェアして」
L「...お前、アカウント持ってるんだから、kaekoikさんフォローしたほうが早くね?」
A「...恥ずかしいよ」
L「...ぁあ、そう」
***
新着記事が上がってるかどうか確認するだけのはずが、結局そのまま一緒に読むことに。例の如く僕のアカウントで開いたnoteを画面共有して、話は続く...
L「すげぇ、トップ画像に古文書みたいなのが写ってる! これ、実際に撮った写真っぽいよね」
A「でも、赤鉛筆で書き込みがしてあるよ。ふつう古文書にそんなことはしないだろ」
L「あ、ほんとだ。『謡本』だって。表紙がかわいいw」
A「きっとオペラのリブレットのようなものだね...って、何をニヤニヤしてるんだ、気持ち悪いな...」
L「...だって『文学や修辞学をきわめて『神曲』を書いたダンテさんには(…)理解してもらえるはず』って書いてあるから...」
A「...君じゃなくてダンテに言ってるんだよ。Ti chiami Dantino, sei uno sciocchino… www」
L「黙れ」
A「それはともかく、第一パラグラフの導入は素晴らしいよね。 “謡曲は古典文学に関する色々な知識を身につけた上で理解すべきものだから、文学や修辞学を極めて『神曲』を執筆したダンテにだったら理解してもらえる” って繋げるのは見事としか言いようがない」
L「僕もそう思った。それにさ、こういうことを教える高校って... 一体どんな高校なんだろ? 僕の行ってた学校ではこんなすごいこと教えてなかったと思うんだよな... まぁ県下最悪レベルの高校のうちの一つだったから、比較するのもアレなんだけど...」
A「ここに書いてあることを読むと、学校のレベルがどうこうっていうよりも、彼女の先生がいい先生だったんじゃないかな、と思うけど。古典に対して情熱を持っている感じがするよね。それに、こういうことに精通してるって、博学な上に奥ゆかしいんだろうなぁ。きっと綺麗な人なんだろうね」
L「偏見もいいところだな...」
A「ねぇ、この『←in dialetto di Beppu』の前の部分は、日本語訳版だと大分の方言で書かれてるの?」
L「うん。僕、大分弁聞いたことないけど、文の末尾がすげぇかわいいw (『~やったっち』、今度僕も使お...)」
A「そうなんだ。翻訳だと、そういうところが分からないから残念だなぁ。俺も日本語が読めたらよかったんだけど。ねぇ、君はさ、そういう雰囲気的なものを伝えるときって、どうやって訳す?」
L「そうだなぁ... 僕だったらこういう場合は、大分弁の部分は方言で表現するかな。ロマーニャ方言だったらちょっとは分かるし、何よりお前に校正してもらえるから、標準イタリア語の上にロマーニャ方言のルビを振るだろうな」
A「なるほどね」
L「お。次のパラグラフは古典文法とレトリックの話だ。僕、文法大好き!」
A「試験では点数取れないけどね」
L「黙れ」
A「イタリア語の動詞の活用にも触れてるね。そうそう、呪文のように唱えて覚えるんだよ。君は俺と出会った時にはもうイタリア語を話していたけど、やっぱり発音しながら覚えたんだろう?」
L「うん。活用はさぁ、stareの接続法半過去ですげぇ苦労したんだよ。いつもvoiの活用で大爆笑しちゃってさ、全然最後まで言い終われねぇのwww」
A「まぁ、確かに、音の感じがね... でも、そこまでおもしろいかな...? そういえば、君、活用が卑猥な動詞があるって言ってたね」
L「そうそうw 直説法現在の一人称単数形が卑猥な動詞があんのw 久しぶりに暗誦してみようかな! ma...」
A「いいよ。それ、俺にとっては全然おもしろくないから。次の項目では和歌の形式と三韻句法について書かれているね」
L「『和歌の方が詠みやすそう』って書いてあるけど... まぁ、形式のことだけいえば、五・七・五・七・七に揃えればいいだけだからね。でも、問題は...」
A「『枕詞』と『掛詞』?」
L「そうそう。僕はそんなに詳しいわけじゃないから偉そうなことは言えないんだけど、『枕詞』はネットで調べればなんとかなるんだよ。でも、『掛詞』は本当に難しくて...」
A「上手くできるようになるには時間がかかりそう?」
L「Esatto! ちょっとやそっとの語彙数じゃできないし、ひらめきが必要不可欠だよ。両方ともそう簡単に身につけられるものじゃないからねぇ... それなりの歌を詠めるようになるのはいつのことやら... それにしても、今回の記事は、特に興味のある分野だったからっていうのもあるけど、いつもに増して面白かったなぁ」
A「...まだ終わってないよ。『こぼれ話』...」
L「お、なになに...って、これ...」
A「君のことだな... おい、褒められてるじゃないか。 この分だと、それなりの歌を詠めるようになる日もそう遠くないんじゃない? よかったなぁ!」
L「...落第点が日伊両言語で晒されてるけどな」
A「でも、7点は君にとってはいい方だろ。高校三年生の時なんか、数学が年間通して0点だったけど、卒業のための追試は2+3とか4-2とか簡単な計算問題だけだったから100点取れたって喜んでたよね」
L「いや、あれは...ほぼ100点。7+6と、2×9、間違えたから...」