【随想】小説『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成
六人の嘘つきな大学生
いやー実に面白かった
二手三手予想しながら読み進めたが
まあ騙された
そりゃあ作者と読者は「フェア」じゃないから
騙されて当然なのだけど
その騙し方が巧みだった
どのタイミングで物語を終えるかで
登場人物の印象はガラッと変わる
嫌な面を見た後に物語が終わったら、その人は嫌な人の印象で終わり
良い面を見た後に物語が終わったら、その人はいい人の印象で終わる
たとえ嫌な人の良い面が過去に描かれていたとしても
現在のイメージがいとも簡単に過去を上書いていく
それはたぶん現在のイメージが
過去に起きたいくつかの出来事を都合よく参照して
バイアスをかけて認識するからだろう
良い面を見た時は、良い記憶を参照し
嫌な面を見た時は、嫌な記憶を参照して
やっぱりそうだと
今の自分の気持ちを納得させる
さらに言えば
勝手な推測、思い込み、捏造によって
そのイメージを強化することだってあるだろう
とにかくそれくらい人の印象というのは
移ろいやすく頼りないものだ
まさにこの本はそんな「ピークエンドの法則(注)」を巧みに利用した
いや「ピークエンドの法則」に警鐘を鳴らす
印象操作ミステリである