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【随想】小説『プラスティック』井上夢人

プラスティックという本を読んだ。
久々の井上夢人さん。
20年も前の作品らしい。
どんなことを書いてもネタバレになるが、ネタはだいぶ序盤の方から、分かってしまう。
ネタとタネって、近い言葉。
種明かしとネタバラシ。
まあそれはおいといて。
好きなタイプのミステリーなのだが、だいぶ序盤でネタがわかってしまった後の読み方が難しかった。
章が短いのでグイグイ読ませるし、まったく飽きはしないのだが、もう結論はわかってるから、どのように物語を運ぶんだろうと思いながら読んだ。
中盤は登場人物たちの、それぞれの事件への向き合い方が描かれる。
ネタは、もう分かってしまっているから、そこに新しい気づきや出来事は起こらない。
唯一、登場人物が北海道に戻った時に、不測の事態が起きて、あ、物語がまた一つ動きそうと思ったのに、それはあっという間に処理されて、もっと二転三転あるのかと思ったが、結構あっさり進んでいってしまった。
そこからも結構な紙幅があって、これ以上何を話すことがあるんだろうと思っていたら、丁寧に丁寧にこれまで起きてきたことを解説(ネタバラシ)していった。
ここまで説明しなくてもいいのに…と思ったが、その説明はラスト数ページのためにあった。
そうか、この見せ方は、このためにあったんだと。
ひっくり返すとかどんでん返しとかじゃない。
ここでようやくタイトルの意味が分かる。
じっくりじわっとここまでの紙幅が、道程が、自分のアイデンティティに問いかけてくる。
こういう手記だけで展開する小説は、湊かなえでだいぶ読んだ気がするけど、ギミックもさることながら、結構テクニック的に大変なことをしてるなと思いました。


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