全国から113種の日本酒が勢ぞろい!
札幌近郊の北広島市といえば、2023年に開業した北海道日本ハムファイターズの新本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」があることで、全国的にもすっかり有名になりました。
そんな北広島市で「日本酒を飲みまくる夏フェス」が開催されると聞きつけた我々(?)は、あまり下調べをすることなく、ほぼほぼ成り行きまかせで現地へと向かったのであった――というリポートをお届けします。
●北広島市はこんな町(イベント概要とアクセス)
さっそくですが、イベントの概要は以下の通り。
しかしこの時期、全国各地でいろんなお酒のイベントが開催されてますよね、ホント。
■第10回北の酒まつり in きたひろしま
日時 7月13日(土)11:00~20:00、14日(日)10:00~17:00 ※雨天決行
会場 北広島市中央3丁目7-1
料金 前売3,000円、当日3,500円
主催 北海道きたひろ観光協会/主管 北の酒まつり実行委員会
2日間にわたって開催されるこのイベントの目玉は、何と言っても「利き酒ひろば」。北海道から沖縄まで、全国各地の蔵元から113種類もの日本酒を集めて、みんなでじゃんじゃか飲みまくろうという趣旨なんですね。マジかよ。
これらの銘酒の中で、特にフィーチャーされているのが、広島県のお酒です。
広島の西条は、京都の伏見、兵庫の灘と並ぶ「日本三大酒どころ」とされていますが、その西条がある東広島市と、北海道の北広島市は姉妹都市。ゆえに西条にある8つの酒蔵の代表的な銘柄が、ゲストとしてぶ厚めに招かれています。
「そもそも北広島市ってどこ?」という皆さんもいらっしゃるかと思いますので、参考までに位置関係やアクセスを紹介します(ご存じの方はスキップを)。
ちなみにですが、北広島駅からエスコンフィールドまでは、徒歩で30分ぐらいかかります。シャトルバスが運行していますので、遠征勢はご利用を。将来的には最寄り駅ができる予定とのことですが、どうなんだろう?
なんでこんな説明をしているかというと、「北の酒まつり」の会場がこの「エルフィンロード」沿いにあるから。北広島市役所の近くです。いや、来年も同じ場所で開催されるかどうかは、わからないんですが。
いかにも「野球を見に行きますよ」という顔つきで、野球ファンにまぎれて歩きつつ、途中で急旋回して、いざ酒まつり会場へ。
●おちょこ片手に右往左往
さて「利き酒ひろば」のシステムですが、受付で3,500円(当日料金)を支払うと、専用のおちょこと腕に利き酒用ギグバンドを巻かれます。ゲートをくぐって公民館風の建物に入ると、そこには各銘柄の一升瓶とそろいのTシャツに身を包んだスタッフさんが四方にずらり。手ぐすねを引いて待ち構えているんですね(のような気がするだけ)。
一瞬、気圧されながらも一旦落ち着いて態勢を立て直し、おちょこを片手にジリジリとブースに近寄って、銘柄名やどこの地域の蔵元か、といった情報を微妙な距離から観察。「これだ!」と思った一升瓶の前に突撃し、「オネガイシマス!」とおちょこを突き出すと、スタッフさんがスイーッと注いでくれる、というシステムになっています。
以降、飲み干して→移動・観察→おちょこ突き出し、飲み干して→移動・観察→おちょこ突き出し、と延々と繰り返していくわけですが、ここからはもう、時間無制限のギブアップシステム。自らタップするまで(理論上は)リングに立ち続けることが可能です。
「これはすごい!」と感心したのが、外部発電機と冷蔵ケースを完備して、酒を十分に冷やし込んでいたこと。今や冷やして飲むのが主流になりつつある日本酒ですが、こうしたオープンなイベントで温度・品質管理に気を配っているのは、すばらしいですね。
普段はなかなか飲む機会がない全国の銘酒を、汗だくになりながらいただくのも、このイベントならではの楽しさ。
同行した後輩W君と立ち飲みコーナーでダベッていたところ、隣にやってきたおじさんがおもむろにリュックを下ろしてタッパーを取り出し、自作したらしき「青物のおひたし」をつまみに、ホロホロとエビス顔で独り飲みを始めて、それはまさしく達人のたたずまい。さすがでございます。今回で第10回を迎えた「北の酒まつり」だけに、楽しみにしているファンも多いようですね。
会場には実際に、女性グループやファミリーから、カップル、単騎のおじさんまで、多様な日本酒ファンが詰めかけていました。後の集計によると「2日間で約18,000人のお客様が御来場」とのことで、結構な人出。
なんだ、日本酒好きのご同輩はみんな知ってたんだな、この大会。
皆さんも、ペットボトルの水、帽子や日焼け止めスプレーなどを必携の上、来年はぜひチャレンジを!
イベントリポートは以上ですが、例によって長くなっちゃったんで、以下におまけのエピソードを2本。興味とお時間のある方は続きをどうぞ。
●おまけ1 シェフ貫田の「塩でお酒が旨くなる!?」
「利き酒ひろば」の一画では、フードコーディネーターのシェフ貫田さん(ヌキタ・ロフィスド代表)による実演コーナー「塩でお酒が旨くなる!?」が開かれていました。いわゆる「手塩で飲む」際の利き酒の方法を伝授していたので、もちろん参加。
塩を使った実演では、
1 まず普通にちょっと飲む
2 次に塩をひと舐めして
3 すぐに酒を飲んでみる
という方法で比較しました。
周りの皆さんは「……!??! 変わった!」「甘くなった!」というナイスリアクションでしたが、私はすでに酩酊していたのか、味蕾の老化が著しいのか、「うーん、ちょっと苦くなった? カナ!?」という確信の持てない反応で、誠に申し訳なし。
味の濃いお酒の方が違いがよく分かるとのことで、貫田さんのおすすめである広島県竹原市の竹鶴酒造「純米竹鶴」でも試してみました。とろみのある琥珀色の酒と塩を合わせてみると、これがめっぽううまかった。そういうことか!
●おまけ2 赤毛米の酒「久蔵翁」
「利き酒ひろば」には、北海道のお酒もひと通り出展していましたが、普段から飲んでいるのでスルー気味でした。が、思わずおちょこを差し出してしまったのが、小樽の田中酒造さんの「久蔵翁」(特別出展)。このお酒、北海道米のルーツにあたる「赤毛(あかげ)」を使って醸した、貴重な純米吟醸の原酒なんですね。
「北海道稲作の父」「寒冷地稲作の祖」と呼ばれる篤農家の中山久蔵は明治6(1873)年、現在の北広島市島松で、寒さに強い品種「赤毛」の栽培に成功します。お風呂のお湯を流し込んで水田を温めたといったエピソードが伝わっていますが、この「赤毛」こそ、現在普及している北海道米の始祖にあたります。
北広島市では、今もわずかに「赤毛」を栽培していて、この米を使って醸したのが「久蔵翁」。飲んでみたいなーと思っていたんですが、常時販売しているわけではないので、そこはめぐり合わせ次第。今回、久々に醸造したそうでラッキーでした。野性味が感じられる原酒ならではの味わいでしたよ。
さらに、特別出展4種のうちの一つが「1873赤毛米焼酎」(田中酒造)。度数40度の米焼酎で、こちらもいただきましたが、しびれるようなキックとコクのある旨みが共存した、珍しい逸品でした。
現在では「彗星」や「吟風」「きたしずく」が北海道産の酒造好適米として広く流通し、高い評価を得ていますが、実はこれらの酒米もすべて、歴代の研究者たちによって連綿と積み重ねられてきた品種改良の賜物(たまもの)なのです。
このあたりの詳しい経緯は、拙著『ほっかいどう地酒ラベルグラフィティー』のコラム「北海道の酒米」で紹介しています。実際に品種改良に携わった専門家へのインタビューをまとめた記事なので、興味のある方は、ぜひご一読を。
そうです、最後は宣伝です!