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人に読ませることのできる詩を書けるようになったのはおそらく、十七歳か十八歳、高校三年生か大学一年生のころのことだと思う。人に読ませることのできる文章を書けるようになった時期とほぼ…
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2020年11月の記事一覧
詩集『青春』 第二章 旅の場所 作品04〜06
【作品04】旅の場所(一) 蒲庭岬
海を歩いた
空は灰色に濁って
遠くまで波のうねりが続いていた
〈遠くまで歩いていくがいい〉
砂浜はすぐに切り立った崖になった
崩れかけた砂質の堆積岩からは
時代の知れない
無数の古生物の化石が発見される
石に閉じこめられた
二枚貝、巻き貝、そしてアンモナイトよ
お前たちが生きていた頃と
この世界は変わっているか
まだ この場所が海底
詩集『青春』 第三章 記憶の光景 作品15〜作品18
第三章は高校時代から、大学生のころに書いた詩がおさめられている。たぶん、何百という詩を作ったはずだが、選び抜いて、まとめたものである。
【作品15】 標的
愛の本質にふれながら かって わたしが人に
語った言葉は いままで 一度も役に立ったこ
とがなかった たとえば わたしが意を決して
あなたを幸せにしてあげたいのだ と いった
とき あなたはすこし 顔に怒りの表情を浮か
べて それ
詩集『青春』 第三章 記憶の光景 作品19〜作品23
【作品19】 六月の少女
生まれ落ちてから
幾つの哀しみを知ったのか
膚の透き通った
身体から甘い匂いを漂わせる
長い髪の少女よ
力なく揺れ動く黒髪に
ふと顔を上げて
おとがいに作られた
青白い陰
だまされて女になった日の鮮烈な記憶
部屋の窓から見えた
雨に濡れた木の葉の
絶えず動くあざやかな緑
●一九七一年 六月 溜井昭子に ◇溜井昭子はのちの女優・水沢アキ。