[読録]『しんせかい』山下澄人
小説とは、作家による現実の経験の再現である、という当たり前に見える事実。けれどもこれこそが、私たちが小説を読む理由の本質を穿っている。私たちは他人の人生、経験へと入り込み、肉体と意識を借りる。 『しんせかい』。ここで私たちが目撃することになるのは、忘れながら、考えながら言葉を紡ぎ出す語り手のリズムだ。喋っているひとの声の間、思考の感覚が改行に現れ、飛び跳ねるように、戯曲のように言葉が紡がれていく。そして、それはわたしたちに、私たちが考えるリズムと似ている、というリアルさを意