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#掌編小説

[掌編] 夜哭き

[掌編] 夜哭き

 遣るかたないむかつきを胃に抱えたまま、街路に出た。おれには才能がないのだ、という諦めの黒インクは、徐々に決定的に、内臓にまでしみ込んでいった。おれはどす黒い内面を抱えたまま、アーティストが次々入れかわり、歌い踊るYouTubeの曲のミックスリストを通して、音楽を聴いていた。おれの内臓のスポンジは、もう外界のものを吸い込む余裕がないのかもしれなかった。だから、より正確には、音楽がただ流れ込んできて

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沈潜してゆくこと あるいは

沈潜してゆくこと あるいは

 しんと冴えた神経が、部屋の隅の異音を拾い、外をはしる車のフロントライトが一瞬照らした部屋の壁面を認識する。どこへも行けない魂が、塔の最上階にある部屋にとらわれているイメージが浮かび、僕はそれを僕の肉体に投げる。脳という小部屋に閉じ込められた僕のひそやかな思考。躰の枠を出て思考だけになる夢の世界に行きたいと思う。夢が現実に対してでなく、現実が夢に対して優位を持つ世界のシステムがやはり憎い。

 か

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「ふたつの東京」

「ふたつの東京」

 東京は、ふたつ在る。

 直感が頬をかすめる瞬間。地熱発電かと紛うアスファルトの熱の上で、外国人たちが走ったり、泳いだりするのをビジョンに見る。それは苛烈にも、ギリシア神話の太陽のイメージに重なりながら、液晶の中で行われる栄光の祭典たるTOKYOだった。それは私には「存在しないもの」のようにも、はたまた隣にあるようにも感じられた。私は横断歩道を渡りながら、巨大なビジョンに映し出される躍動するアス

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【掌編】不随意運動

【掌編】不随意運動

  小便が、便器の上にきいろく一滴残っている。トイレットペーパーを追って巻き取り、それにあてがって捨てる。男にとってそれは音もなく、感慨もない作業だった。曲げていた腰を伸ばし、チェスターコートに手を伸ばす。一刻も早く、取引先の最寄り駅には着いておきたいと思う。男は、個室から出て、手をぞんざいに洗い、ジェットタオルにかけながら改札までの距離と次の電車の乗車位置について考えていた。ジェットタオルの音が

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