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連載:「新書こそが教養!」【第14回】『客室乗務員の誕生』

2020年10月1日より、「note光文社新書」で連載を開始した。その目的は、次のようなものである。

■膨大な情報に流されて自己を見失っていませんか?
■デマやフェイクニュースに騙されていませんか?
■自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?

★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、哲学者・高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

現在、毎月200冊以上の「新書」が発行されているが、玉石混交の「新刊」の中から、何を選べばよいのか? どれがおもしろいのか? どの新書を読めば、しっかりと自分の頭で考えて自力で判断するだけの「教養」が身に付くのか? 厳選に厳選を重ねて紹介していくつもりである。乞うご期待!

CAの「究極の任務」

飛行機の乗客が「パニック症候群」だとCAに伝えたところ、機長から「自分もジェットコースターは苦手です。揺れないように操縦しますから、ご安心ください」という機内アナウンスがあった。その配慮に、乗客は感激した。

出産直後から集中治療室に入っている孫を見舞うために、老夫婦が飛行中に「折鶴」を折っていた。事情を知った機内のCA全員が、折鶴を折り、お見舞いメッセージを添えて渡してくれた。夫婦は、彼女たちの行為に感動した。

着陸後、乗客が搭乗口に向かって歩いていると、CAが追いかけてきた。この乗客の持っていた土産袋が痛んで破れかけているのに気付いて、新しい紙袋を持ってきてくれたのである。乗客は、彼女の思いやりに深く感謝した。

これらのエピソードは、大手航空会社に採用された「CAの卵」が「訓練開始までに読むように」と渡された冊子から抜粋した「お客様の声」の一部である。実は、私のゼミから入社の決まった卒業生が見せてくれたものである。

この冊子の表紙には、「100人のお客様」がいれば「100通りの想い」があり、その「想い」は常に変化するため「正解はありません」と書いてある。しかし、その「想い」に応えることは「難しいこと」でも「特別なこと」でもなく、「一生懸命さ、ひたむきさは必ずお客さまに伝わります」とある。なるほど、これが「おもてなし」教育の出発点なのかと、大いに考えさせられた。

本書の著者・山口誠氏は、1973年生まれ。埼玉大学教養学部卒業後、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。関西大学社会学部准教授などを経て、現在は、獨協大学外国語学部教授。専門は、社会学・観光学。著書に『英語講座の誕生』(講談社)や『グアムと日本人』(岩波新書)などがある。

さて、今から百年前の1922年、イギリスのダイムラー航空が、世界初の客室乗務員「スチュワード」を配置した。当初は飛行機への負担を軽減するため、小柄な少年が乗客の食事や飲み物のサービスを行った。1930年にはアメリカで女性の「スチュワーデス」が誕生し、1934年にユナイテッド航空が採用した看護師資格を持つ8人の女性「オリジナル・エイト」が大評判になった。

第2次大戦後、民間航空機の日本上空飛行が許可された1951年、「日本航空」が誕生した。この年に採用された「エアガール」には、1300人の応募から、年齢・身長・体重・学歴に加えて「容姿端麗」で「英会話可能」な15人が選ばれた。それから70年、「エアホステス」・「スチュワーデス」から「CA(キャビン・アテンダント)」に変遷する経緯が、本書では、制服・機内サービス・ドラマ制作・メディア情報などの多種多様な観点から詳細に分析されている。

いわゆる「サービス」が、対価に応じる一般的な対応であるのに対して、個人に向けた特別の配慮のことを「ホスピタリティ(hospitality)」と呼ぶ。とくに日本に特化した「ホスピタリティ」が「おもてなし」なのである。

本書で最も驚かされたのは、山口氏がCAを「おもてなしの達人」と位置付け、その「達人」になることを「究極の任務」とみなしている点である。果たして現場のCAがそこまで意識しているのか、一度尋ねてみたい(笑)!

本書のハイライト

品格労働とは、対価を求めない無償奉仕、終わりなき自己研鑽、そして伝統や教養に裏打ちされた集合的で審美的な品格への同化、という三つを特徴とする、日本型ホスピタリティとしての「おもてなし」に特有の思考様式である。それはお金のためでなく、他人のためでもなく、自分を磨くために伝統の「おもてなし」を実践し、その先に日本人としても品格を共有する、という考え方である。(p. 222)

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高橋昌一郎
Thank you very much for your understanding and cooperation !!!

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