【読書感想】思考の整理学

【作品名】思考の整理学
【作 者】外山とやま滋比古しげひこ
【出版社】筑摩文庫
【発売日】1986年4月24日
【ジャンル】エッセイ(how to・自己啓発)


要約

 仕事が次々にコンピューターに置き換わっていくこれからの世界で、自らの力で考えることのできない人は仕事を失っていきます。人間にはグライダー能力と飛行能力があり、前者は受動的に知識を得る能力、後者は自ら発見や発明をする能力のことです。本書ではグライダー兼飛行機人間になるための心掛けを考えていきます。

 思考を高度化するためには、「着想」「整理」「統合」「抽象化」し第二次情報に昇華することが必要です。さらに第二次情報から共通項を見出して第三次情報へ昇華する。こうして、単なる「着想」を知恵として体系化することができます。

【着想】
 テーマ作りはビール作りに似ています。感心した事、違和感を抱く事、わからない事は、ビール作りでいう麦であり素材になります。そこに酵母である、ヒントやアイデアを加えます。この酵母は読書、テレビ、雑談、色々なところに潜んでいます。そして最後は寝かせる。どんなにいい素材といかに優れた酵母があっても、寝かせなければアルコールにはなりません。あとは頭の中のビールが発酵を始め、時がくれば自然に頭の中で動き出すでしょう。
 酵母となるヒントやアイデアは日常の至る所にあります。なので手帳を持ち歩きましょう。アイデアを思いついても、すぐに書き留めておかなければ忘れてしまいます。忘れたアイデアは二度と戻ってくることはありません。そして書き留めたアイデアはそっとしておく。頭の中を知識で埋め尽くすのではなく、考える余裕を持たせておきましょう。

【整理・統合】
 集めたアイデアは定期的に棚卸ししましょう。腐るアイデアもあれば、時間とともに輝きを放つアイデアもある。これらを一つのノートに同居させてはいけません。いいアイデアは別のノート、「メタ・ノート」にまとめましょう。
 また、思考を整理するためには、「うまく忘れる」ことが必要です。昔は「生き字引」と呼ばれた人はとても有り難がられましたが、今はそうでもありません。記憶はコンピュータの得意分野だからです。今は創造性の時代です。やたらに物が多い工場の生産性が悪いように、やたらと知識が詰め込まれた頭ではいい考えは浮かびません。忘れるためには、書き留めて、寝かせる。風化に耐えた着想は、「メタ・ノート」に移す。こうしてできた思考は真に価値のあるものになります。

【抽象化】
 第二次情報を得るのに有用な方法は、先に述べたビール作りがあります。他にも、複数のアイデアを調和折衷させるカクテル法や、比喩表現も有効です。
 また、実生活の中での具体的な経験を整理して、公式化していく。この公式は「ことわざ」として古くから存在しています。本の中の知識だけではなく、現実に根を下ろした汗のにおいがする思考から創造的な知恵は生まれます。
 汗のにおいがする思考と、観念上の思考。この2つを身につけてこそグライダー兼飛行機人間になれるのです。

覚えておきたい3つのポイント

 本書を読んで、心に残った言葉、これは勉強になるな、と思ったことを3つ紹介します。

【1】ことばの残像
 文章中の一つのことばの意味が、残像となって後ろのことばに掛かかる。一つ一つ独立しているはずの言葉が繋がると文章になり、部分の合計以上の意味を持つことになります。
 難しい文章を読む際、思い切って速く読んでみると内容がよくわかるときがあります。これは残像がよく効き、部分を全体で捉えることが出来るからです。

【2】要約は十人十色でただ一つの正解はない
 要約には面白いもの、良くまとまったものはあるけれど、唯一絶対の正しいものはない。

【3】収斂的読書と拡散的読書
 収斂的読書は、筆者の意図を正解として、これに到達することを目標とする読書。拡散的読書は、自分の新しい解釈を作り出していく読書。

感想

 「思考の整理学」は、短編集のような本です。一つ一つの短編でも味わい深いですが、これをうまく並び替え(編纂)することで、部分の総和以上の深みがあります。そして、短編の集まりであるが故に話が立体的です。一ページ目から最終ページまで、連続する一本のレール上の話ではありません。あるAという短編があるとしたら、それがBにもCにもDにも、横断して意味が連なっています。立体的であるが故に、見る角度を変えるとまた違った姿を見せてくれる。
 今後の人生、ずっと読み続けることになるだろうと、そう感じた本でした。

 私のブログで、本の要約を記事に載せてから、いかに筆者の意図に近づけられるかを考えていました。なので、「拡散的読書」という言葉を見た時、一気に視界が開けたような感覚になりました。今まで私は、いかに筆者の意図を汲み取れるかを考えていました。義務教育では、そう習いますもんね。
 ネット上には沢山の読書感想があります。それらを見て。「それは意味違くね?わかってないなー」と思ったこともあります。でも、本というのは個人個人の解釈を全て含むものなのです。(でもやっぱり、たまに変な感想の人はいますけどね……、私がそうなっていないことを願います)

 この本はいろいろな見方ができる本だと思います。私は読書家なので、読書家目線で「思考の整理学」を読み、上記のような感想、要約になりました。ですが、仕事人、学生、クリエイター、ニート、誰が読んでも十人十色な見方ができる本です。 それはこの本が高度に抽象化していて、普遍性が高くなっているからだと思います。それでいて、現実に根がおりている。体にスッと入ってくるような、そんな知恵が詰め込まれた本になっています。

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