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ベン図の罠 〜理想的なキャリアとビジネスモデルのあり方について〜

「Will - Can - Must」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?多くの人材を自社内だけでなく、社外へも輩出してきたリクルートでは、この3つの単語によって人材マネジメントを行っています。

「Will - Can - Must」とはなにか

Will:やりたいこと/Can:できること/Must:やるべきこと

読んで字のごとく、Will-Can-Mustを整理することで、「個人のパフォーマンス発揮と会社のミッション実現を両立させる」ことができるという考えのもと生み出されたフレームワークになります。

たとえば、「企画やマーケティングの仕事に就きたい(Will)」人がいたとしましょう。その人が属する会社で、マーケティング部門が「SNS運用に精通している(Can)」人を社内公募していたとすると、自身にその経験やスキルがないとマッチしません。

あるいは「SNS運用に精通している(Can)」人がマーケティング部門に属していたとして、部門ミッションである「フォロワー1万人獲得(Must)」に貢献できたとしても、その人のモチベーションは「事業開発がしたい(Will)」だとすれば、いわゆるミスマッチを引き起こしている状態であるため、遅かれ早かれ転職する懸念が生じているといえます。

このようにキャリア形成や就転職における人材マネジメントにおいて、このWill-Can-Mustというフレームは、とても有効なものになっています。

事業の持続成長に不可欠な「3 good」

Social:社会の問題解決につながるか/Business:儲かるか/Personal:やりたいことか

似たようなベン図を用いて、当社が独自に編み出した「3 good」というフレームワークも紹介します。

当社は、年に1回、LOCAL VENTURE ACADEMYという起業スクールを実施しています。このプログラムでは、スタートアップが取り組むJカーブを超える急成長曲線を目指すモデルを教えるのではなく、いわゆるスモールビジネスからスタートして着実に事業成長を目指すモデルを伴走しながら組み立てています。(プログラムの内容については、改めて紹介します!)

こうした事業モデルの場合、持続成長が重要になってくることから、その実現に不可欠な「Social Good - Business Good - Personal Good」という3つの要素を表した図として用いています。またWill-Can-Mustと同様に、このフレームにおいてもきれいに重ならないと持続成長できない要素がリスクとして顕在するようになっています。

たとえば、社会問題解決に取り組みたい思いをもっている人が、目の前の問題対応に取り組むサービスを考えたとしても、それが儲からなければボランティアの域を超えることはできません。

注記
こうした見解は、ボランティアをダメだと言っているわけではありません。当社は民間企業かつ経営理念を踏まえて「起業・企業支援を通じて地方経済向上に寄与する」会社を目指しているため、あくまでも経済活動を軸に起業を支援する、そして地域や社会問題解決に取り組む集団であるため、こうしたフレームを使っている次第です。

同様に、どんなに社会の問題解決につながり、かつ儲かるモデルだとしても、その人のモチベーションが持続しない限り、事業の持続成長や存続も難しいものです。(余談ですが、LOCAL VENTURE ACADEMYで「もし数十年前に戻って、Amazonのビジネスモデルを思いついたとしても、数十年にわたって今の規模まで成長させることができる人はほぼいない」という話をよくしています。これは能力的なスキルの話もありますが、それ以上に「世界中に欲しいものをすぐに届けられる社会にしたい」というモチベーションの根源を数十年にわたって、いまもなお強く持ち続けるということ自体がいかに難しいか、という趣旨で話しています)

ベン図の落とし穴

このように、いくつかの要素の重複をうまく図示化して表している「ベン図」ですが、このフレームワークには大きな落とし穴が存在しています。


錯覚1 円の大きさが同じとは限らない

書籍や記事では、可読性や美しさを意識することから、多くのベン図は「同じ大きさの円」で表示されます。強いていえば、数値や個数などの定量規模を表すベン図は大きさを変えて紹介されることも多いですが、意識や評価などといった定性を示すベン図は同じ大きさで表されることが多いのです。でもよく考えてみると、そんなことはまずありえません。

錯覚2 重複箇所も等分とは限らない

円の大きさだけでなく、重複においても同様のことがいえます。いくつかの要素の重複を比較した場合、多くは重複箇所の面積に多寡が生じるもの。しかし多くの記事では、あたかも等間隔で重複しているように見せることが多いのです。

理想的な「Will-Can-Must」の図

こうしたベン図の罠を踏まえて、理想的な「Will-Can-Must」のあるべき姿は、まったく異なった図になります。

理想的なキャリアは「Will > Can > Must」の順になります。つまり「自分自身の関心が最も大きい」状態であること、そして「やるべきことが最も小さい」状態を指します。この状態であれば、Canを伸ばすのは「Mustができないから」ではなく、「自分自身が実現したいWillを叶えるため」という自発的要因によって研鑽学習が行われるため、非常に自律したキャリア構築が可能な状態といえます。

では逆に、最も良くない状態とはどのような図になるか。それは「Mustが最も大きく」「Canが最も小さい」状態を指します。簡単にいうと、「やるべきことは多いけど、できることは限られている」状態です。こうなると、日々の業務をこなすので精いっぱい、それでもこぼれまくっている状態になります。また自身のWillよりもMustが大きいため、やるべきことの意図や背景を理解することにも時間を要します。そのため、すべてにおいて受動的になってくることが多く、さらにMustとWill-Canのギャップが拡大するという負のスパイラルに陥りやすいです。

では、これらをどのように「Will > Can > Must」の状態にしていくべきなのか。これは順序があって、「徹底的にCanを広げる」ことから始めるべきです。最終的にはWillを最も大きな円にすることが重要ですが、やりたいことというのは「変化するもの」であり、この変化に対応する、もしくは変化を促すためには「Canの拡大」が不可欠です。

そしてCanの拡大は、OJT(On the Job Training:職務を通じて上司や先輩等から学ぶこと)だけでは絶対に実現できないと言われています。会社で行う業務は、Can要素も含んでいますが、Do要素のほうが大きい。それは業務や顧客サービスの提供においては、簡単にCanできることと難解なCanが入り交じっているため、一定レンジにいくとOJTで伸ばせるCanは限界が生じます。

ロミンガー社が提唱する「7:2:1の法則」においても、成長のために必要なことは「経験7:指導2:社外1」となっています。この割合は、経営職や専門職に近いほど、後者の割合が高くなるはずです。つまり、Canを伸ばすために不可欠な要素は、「社外での学習機会をどれほど確保しているか」に尽きるといえます。

事業の持続成長可能性を高められる状態とは

キャリアと同様に、事業においてもベン図の整理は役立ちます。3 goodで理想的な状態とは、「Personal > Business > Social」になります。どのような状態かというと、取り組むべき問題や解決したい負が明確で、それを実現するビジネスモデルは多々あり、自分の関心はさらに広いため、「問題を解決できるビジネスモデルであれば、なんでもよい」という極めて受けが広い状態になります。

当然、事業はうまくいかないことも多いため、どこかのタイミングでPivotする可能性もあるもの。ここで自分の「変なこだわり」を捨てきれずに、ズルズル沈んでいくことがよくあるのですが、上記の状態であれば、事業成功のためには「なんでもするし、なんでも聞く」という状態であるため、問題設定はブレずに、事業モデルを可変しながら成長していくことが可能になります。

他方、最も厳しい、かつ起業界隈でよくある失敗は「Social > Business > Personal」という状態です。これは自分のこだわりが強い場合に起きがちなパターンで、かつ顧客や社会の問題設定がぼんやりしていることが多い。

この状態に陥っているときに起きがちなのは、
・こだわりが強く、Minimum Viable Productionが遅い(Maxで考えがち)
・顧客や市場、社会課題の設定が緩く、ぶれやすい
・うまくいかない時のピボットや立ち居振る舞いで手が止まって動けない

というようなもの。

これもキャリアと同様に、どう乗り越えるべきか。それは「Business Good」に精通することが近道だと思います。世の中のビジネスモデルや同業の成功・失敗事例を知っているほど、シミュレーションできる範囲は広がります。また自分が在籍していたリクルートでよく使われていた用語のひとつに、「TTP(徹底的にパクれ)」というものがありましたが、まさにその通りで、成功したモデルを後追いする形で動く、しかも表面ではなく本当に徹底的に真似るだけで成功確率は格段に上がります。こうした学習機会は、まさに社外や書籍でしか得ることができないもの。

キャリアの理想も、ビジネスの成功も、第一歩は「外を知る」こと。業務に忙しい、やりたいことが明確などといった事情はあると思いますが、「忙しくない日が来ることがおかしい」ですし、「やりたいことはいつか変わるもの」。そんな現実を受け止めて、「いま関心がないこと」「いま社内では得られないこと」に触れることこそが、成功の近道だと思います。

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