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サウナ小説 ~サウナ音頭~ 第6話 経験はやがてスタイルに(カプセル&サウナ ロスコ)

無性に眠たい。
無性に辛いものを食べたい。
無性に人肌が恋しい。
人という生き物は誰しも、そんな欲求への衝動に駆られる。これは愚かなことだろうか。
そしてサウナーという生き物には、人間の3大欲求に加えてもう1つ。
サウナ欲というものがある。
そしてサウナを知れば知るほど、その欲望はより具体性を増していく。
アツアツノサウナイキタイ、、、
ハジメテノサウナイキタイ、、、
そんな願望を叶えてくれたサウナがこちら。
カプセル&サウナ ロスコ
名前は知っていたが、玄人向けと聞いていたので足を踏み出せずにいた。
今回は衝動に身を任せ、駒込へと赴いた。

駒込。約5年前、東京で初めて訪れた街だ。
就活で東京に来た際、駒込にある友人宅によく泊めてもらっていた。
当時はサウナに全く興味がなく気にも留めなかった。
幸せは案外近くに転がっているものなのだろうか。そんなことを考えながら受付へと進む。
とれたてのサウナスパ健康アドバイザー資格証をドヤ顔で提示。1週間ほど前に手に入れることができた。これだけで300円引きはありがたい。

タオルと館内着を一式取り、エレベーターへ入る。
少し上下に揺れる床。古き良き雰囲気、趣がある。
しかしドアが閉まるなり、私は目を疑った。
床にはコンセント、ドアには張り紙。
"コンセントはご自由にお使い頂けます"
誰がそんな短時間で電気欲しいねん!!
それかエレベーター宿泊プランでもあるん!?
もう少しで声出そうだった。
流石50年続く老舗。我が道を行く感がたまらない。

そんなこんなでエレベーターを出て脱衣所へ。細長いロッカーに荷物を押し込み、相棒のチープカシオを左手首に装着。高まる期待に胸を膨らませながら、浴場へ向かった。

浴室は比較的コンパクトな造り。浴室中央に洗面台があり、周りを風呂とサウナが囲っている。
ととのい椅子はサウナ横に2脚だ。
まずはシャワーで身体を洗、、あれ、お湯が出ない。
レバーを思いっきり下に回すと、やっと出てきた。
強い意志を持って物事をやり切れ。そう言われているようだ。
毎度おなじみの勝手に解釈芸を決めたところで、無事に身体を洗い終えてジャグジー風呂へ。熱すぎなくて心地良い。いつまでも居られそうだ。しかし私の目的は熱々のサウナ。
身体への湯通しを終え、丁寧に水気を拭き取る。いざ行かん。

室内に入った瞬間に体感する110℃の世界。一歩一歩進むたびに、全ての空気が全身に突き刺さる。オレンジ色の部屋の中には、座る用と寝そべる用のベンチがそれぞれ複数の高さで用意されている。私は最上段のベンチに腰を落ち着け、胡坐をかく。
ドライサウナのため湿度は低め。熱く乾いた空気が鼻腔をチクチクとくすぐる。それに耐えかねて、自ずと口でも呼吸するようになる。
空気に木材のほのかな香りが入り混じり、口に入るとかすかに味がする。キャンプファイヤーを思い出させる空気、火の粉でも口に入ってきたかのような感覚。クセになるこの味は、サウナ錦糸町にも通ずるものがある。

昭和ストロングスタイル。いつもよりも早く大量に汗が噴き出し始める。数分後には、どこから汗が出ているのか分からないほどに汗だくになっていた。
いつもは8~10分ほどサウナにいるのだが、今回はたまらず6分で腰を上げる。サウナ室の床を踏む足裏、扉を開ける手のひら。一挙手一投足に熱を感じながら、何とか外へ。
扉を開けて左に数歩進むとそこにはオアシス。しっかりとかけ水をし、いざ入水。
おお、、とっても優しい水風呂だ。20℃弱の水温が、じっくりと身体の火照りを取り除いていく。水風呂は14℃程度の冷ためが好みだが、110℃超えのドライサウナの後は、これくらいが良いのかもしれない。
ちなみにここの水は、地下からくみ上げた天然ミネラルウォーターをかけ流ししているらしい。だから優しく感じるのだろうか、いつまでもいられそうだ。しかし気道がひんやりしてきたので私はなくなく羽衣を脱ぎ捨てた。

水風呂から数歩先にあるととのい椅子にかけ湯をし、タオルで身体の水気を拭き取る。
その一連の動作の途中から、既に身体はととのい始めていた。
身体が浮き上がるような感覚。身体中の血液が活発化し、駆け巡るのを感じる。頭がふわふわし始める。
まだ早いまだ早い、、何とか椅子に腰を下ろす、と瞬く間に完全敗北。
その感覚に身体は完全支配され、なすすべなくととのっていた。
こんなにもととのったのは久しぶりな気がする。
というより数回しか経験していないような、、
今までのサウナで抜群にととのった記憶を呼び起こす。
思い当たるのはサウナ錦糸町、北欧、黄金湯、、、
全て100℃超えの高温サウナだ。
そうか、自分には熱々のストロングスタイルサウナが合っているのかもしれない。
自身の経験から割り出される1つの結論。
自分に合ったスタイルを、ここロスコで知ることができた。

2、3セット目も同様に、最上段でせっせと汗を流す。
1セット目との違いは、外気浴スペースにお邪魔したこと。
浴場を出て脱衣所を通り抜ける。
そこには木製の天国、ウッドデッキだ。中央には露天風呂があり、その周りを囲うように長ベンチが2つ。
少し暖かくなってきた夜風に身体をさらし、時が過ぎるのをぼんやりと眺める。何と贅沢なことだろうか。
少し長居しすぎて身体が冷えたので、露天風呂で身体を温め直す。
HPによると、”脅威の健康回復物質「SGE天降石」で天然水を磨いたスーパー露天風呂”らしい。詳細はよく分からなかったが、心地良い空間であったことは間違いない。

ふんだんにととのった後は、食事処で夕食。
恥ずかしながら初めてオロポを頂戴した。
氷の入ったグラスに、オロナミンCとポカリスウェットをなみなみと注ぐ。すると透明な檸檬色のドリンクが出来上がる。
これがカラカラの身体に染み渡る、、!豚の生姜焼き定食とともに、十二分に堪能。心も体も大満足であった。

 私の始まりの土地、駒込。
こんな素晴らしいサウナがあることを。
というよりもサウナが素晴らしいということを。
リクルートスーツに身を包んだ5年前の私はまだ知らない。
南北線のホームでふと考える。
もしも5年前に戻れたら、私は私に何を言うだろうか。
きっと、何も言わない、と思う。
サウナの素晴らしさはすでに歴史が証明している。だからこそたくさんのサウナ施設がある。
それでも私は、自分の経験の末に発見したかのように我が物顔でサウナに入る。
愚者は経験に学び賢者は歴史に学ぶ。それでも。
1か月後に内定を掴む経験を。
3年後にサウナを知る経験を。
5年後に過労で倒れる経験を。
絶対に教えてあげない。自分で経験して気づいて手に入れてほしい。
私の好きな漫画”プラネテス”に、こんなセリフがある。
「全部オレのもんだ 孤独も 苦痛も 不安も 後悔も もったいなくてタナベなんかにやれるかってんだよ」
無性に熱くなってしまったのは愚者だからだろうか。

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