【創作SF】未来の審判①
プロローグ
時は23世紀ーー
地球はすでに、「青い星」ではなくなっていた。
豊かだった森は枯れ果て、海はプラスチックごみで覆われ、空は常に曇天に包まれていた。荒れ狂う自然災害と資源の枯渇により、地球上の文明はほとんど崩壊寸前だった。
人々は生き延びるため、狭くなった居住地内でひしめき合い、かつての科学技術を使いながらどうにか命を繋いでいた。
地球環境には、もはや何の解決策も見出せなかった。彼らには、未来への展望も希望も存在しなかった。
ただひとつだけ、人類に残された感情があった。
「怒り」である。
誰かが言った。
「こんな地球に誰がしたんだ?」
誰かが応えた。
「21世紀の人類だ!彼らがすべてを台無しにしたんだ!」
200年前に存在した人類のリーダーたちは、環境問題を放置し、地球を破滅に導いたと考えられていた。彼らは決して許されない罪を犯した。
「裁こう……我々は過去を裁くべきだ!」
「そうだ!AIに21世紀の指導者の人格を学習させよう。疑似人格を作り、それをロボットに植え付けるんだ。そして、彼らを裁判にかけ、処罰する!」
誰かが提案したその言葉は、瞬く間に広がり、政府の決定として正式に採用された。
これはただの茶番などではない。過去への復讐であり、未来への希望を引き出すために必要な儀式であった。
人々は狂気に駆られていた。地球生命の前途には希望はなく、未来だけ見つめていてはその閉塞感に耐えられなかった。だから過去に目を向けたのである。
彼らの怒りの矛先は明確であった。
第1章: 疑似人格の誕生
AI開発施設「メモリの殿堂」では、科学者たちが緊張感を漂わせながら作業を続けていた。
過去のリーダーたちの人格を再現するため、科学者たちは膨大なデータベースにアクセスし、21世紀のあらゆる記録を読み解いていた。
指導者たちの言葉、行動、決断、そして、その裏に隠された動機までもが、1つずつ細かく分析され、AIへと組み込まれていく。
「これが完了すれば、21世紀のリーダーが現在に『転生』する。すべてがうまくいけば、奴らを裁けるんだ」
主任エンジニアのカーンは、モニターに映し出されたデータの流れをじっと見つめながら、そうつぶやいた。
しかし、彼の瞳にはどこか疑念の色が滲んでいた。
AI技術は進歩を遂げていたが、果たして過去の人間の「人格」を完全に再現できるのか?
そしてなにより、機械に過去の罪を背負わせて裁くことが、本当に意味を持つのだろうか?
「本当にこれで……未来に希望が持てるのか?」
カーンの問いかけに答える者はいなかった。研究室内の人々もまた、どこかでその疑念を抱えていたのだろう。
しかし、彼らはその疑問を無視し、ただ与えられた任務に黙々と従っていた。
23世紀に生きる人々にとって、これはすべてを破壊した21世紀の人類への「報復」であった。
過去の人類へのやり場のない怒りが、現在の人類の精神をさいなんでいることは確かだ。人類はこの「報復」によってその病苦と決別し、不屈の闘志をもって未来へ向かって歩みはじめるーー
人々をこの裁判へと駆り立てたのは、そんな理屈であった。
数日後、彼らはついに疑似人格を完成させた。そのデータは慎重にロボットに移植され、ロボットは目を開いた。
「これで、あなたは裁判にかけられる」
カーンはロボットにそう告げた。目の前に立つその機械は、静かに彼を見つめていた。
裁判の日はすぐそこまで迫っていた。
つづく
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