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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の三十七
※其の三十六からの続きです。気軽にお付き合いください。
聞けば桜宮姉妹と八神、日野、そして江頭兄弟は同じ鞍馬武道館出身のようだ。
「まぁ、腐れ縁ってやつだ」
八神が面白くなさそうに言い。クスクスと笑う左京と右京。
「雪代は小学校の時から有名だったからな。打倒雪代響子はウチの道場の『合言葉』でもあったんだよ」
八神が付け加える。まぁ、私は小学校の時もいろいろな大会で優勝していたが。
「小学生なら私より藤咲の方が有名だろ? あいつは小学時代全国2位だぞ」
なんでいちいち私だけが目の敵にされなければならないのだ。
「……覚えてないかもだけど、当時のウチの女の子たち、雪代相手に、ものの数秒で、全員、負けてるんだよ」
日野に言われるが、覚えていない。幼少よりあちこちに出稽古に行ってはいろいろな相手と試合や稽古したし、いちいち道場名や名前など気にしていなかった。
「もちろん」
「藤咲も」
「憎っくき」
「相手」
左京や右京にも突っ込まれる。
「それでも何の縁か」
ズイッと江頭兄弟が話しに割って入ってくる。
「蓮夏と古都梨は、今じゃ雪代さんや藤咲さんと同じ総武学園高校でチームメイト」
「本当に何の縁かのぅ」と店長も道場に入ってきた。
「で」
「どうする」
「勝負する?」
「私たちと」
自信たっぷりで双子の姉妹は詰め寄る。
「あぁ。今は暁大第三と総武学園で敵同士だからな。ここは引けないぜ!」
八神は受けて立つようだ。
「日野さんは、どうするの?」
少し心配そうに光が日野の顔色を伺う。
「……やる。蓮夏がやるなら、わたしもやる!」
日野にいつもの力強さが戻る。
「日野のくせに」
「勝てるとでも」
今度は日野も桜宮姉妹にしっかりと向き合う。
「まぁ、いいわ」
「実力の違い」
「暁大第三と」
「総武学園の違い」
左京と右京の目つきが鋭くなる。
「「見せてあげる!!」」
先に江頭兄弟と稽古していた桜宮姉妹は一旦休憩。その間に私と光が八神と日野の稽古に付き合う。
「イャーー! メーーン!!」
「メン! メン!! メーン!!!」
いつも以上に気合が入る八神と日野。
「……これぐらいで良いでしょ」
私の号令で竹刀を収める。
「じゃあ、試合じゃなくて左京と右京、蓮夏と古都梨の4人で地稽古にしようか」
今度は龍二郎さんが号令を掛けてくれた。初めに八神は左京と、日野は右京と相対する。互いに礼をして3歩進み、抜刀して蹲踞。
「始め!」
龍二郎さんの合図で地稽古が開始された。私と光と四日市と相馬は少し離れて見学する。
「「キェェーーー!!!」」
同じ声の気合が道場に響く。
「イャャーー!!」
「ヤァァーー!!」
八神と日野も応戦するように気合を入れて、間合いを詰めていく。ピシッ、ピシッと竹刀の音が響き、バシッ、バシッと防具に当たる音が鳴る。試合ではないので、ペース配分や力量を見極めるような戦い方だ。
「コテ! メン!! メーン!!!」
いつも以上の攻め気と動きで八神は左京を圧倒しようとする。しかし、幼少より一緒に稽古をしていたこともあり、互いに手の内は知り尽くしているかのようだ。攻め気に早まる八神の気持ちを逆に利用しようと返し技や間合いを見切って、八神にペースを握らせない。八神の足が止まるのを見るや、突きを中心に左京が襲い掛かる。
(……やはり強いか)
私が中学の時に左京を圧倒して勝利を収めたのは、もう過去の話。私が剣道から離れている間、並々ならぬ稽古を積んでいたようだ。隙がほとんどなくなっている。八神は『烈火の攻め』の異名を持つが、唯一の弱点が攻めきれなかった時に、動きが止まる。当然、左京はそれを知っているので、一気に畳みかける。
「チッ!!!」
面越しでも見える。八神が苦痛な表情を浮かべる。左京の攻めをどうにか防ぐものの、反撃に転じる機会を失った。八神は『先に先に仕掛ける』のは得意だが、受けに回ってしまうと反撃に転ずるまで時間がかかる。左京はそれも踏まえて、間合いを支配してくる。そして、ワザとらしく八神に間合いを与える左京。
(フェイクだぞ! 八神!!)
四日市との戦いでは焦ってメンを打ちにいった所を、抜きドウを抜かれた。同じ手は食わぬと八神も落ち着くが、いつもの気迫がない。こちらも面越しでわかるぐらい余裕の表情で、左京はニタリと笑う。
「……ダメだ。八神さん、悩み始めた」
光とて八神と何度も稽古をしているので、だいたい私と同じことを思い、そして感じる。悩みながら稽古をするなど、八神ではない。そうなると左京は自分の思うがままの技を放ち、やがて追い詰めていく。
「ちっ。阿呆が……」
今までずっと黙って見ていた四日市が、飽きたかのようにペットボトルの水を口に含んだ。
「メーーーン!!!」
バシン!と快心のメンを放った左京が綺麗に残心を取る。桜宮左京。間違いなく都内でも有名な選手だと改めて思った。
続く