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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校生1年生~ 其の四十

※其の三十九より続きです。気軽にお付き合いください。



 少しの間をおいて桜宮さくらみや姉妹は話し出す。

「なぜ」
「素人の」
「あなたに」
「そこまで」
「言われなければ」
「ならないのかしら」

『負ける』という言葉が響いたか、四日市よつかいち相手に左京さきょう右京うきょうは詰め寄る。

「別に。本当のことを言ったまでだ。今の状況ならこいつが一番まともに試合が出来て、そして、勝ちそうだからさ」

おそらく根拠はない。だが、私や八神やがみ日野ひのでは今の桜宮姉妹と対等に勝負はできない。

「面白いことを言う娘っ子じゃのぅ。どうじゃ? 光さんと言うんか? ここは一つ、左京と右京と試合してみんかぁ」

みんなが光の方を見る。

「えっ!? 私は、そんな強くない……。雪代ゆきしろさんはもちろん、八神さんや日野さんにも毎日打たれてばかりだし」

自信なさげに光は言う。その姿を見て、クスクスと笑う左京と右京。

「いいわ」
「ここは一つ」
「挑発に」
「乗って」
「あげましょう」
「そこの人」
「覚悟は」
「よくて」

それだけ言うと先に2人は中央まで歩いていく。

「いいんじゃないか? 左京右京と試合するのは、光さんにも勉強になるし、為にもなると思うよ」

龍二郎りゅうじろうさんが審判旗を準備してくれた。どうやら日本一の剣士龍一りゅういちさんと、日本で3番目の剣士龍二郎さん、そして店長が審判を務めてくれるらしい。

「物凄い豪華な試合だな……」

相馬そうまも思わずつぶやき、四日市は光にアドバイスをする。

「いいな、光。言った通りだ。右京は下がる癖があるから、そこから詰めていけ! 試合場の端で勝負すると左京右京あいつらは抜き胴でも突きでも何でも打ってくる。常にコートの中央で勝負するよう心掛けろ!」

最後にパンと光の両腕を叩く四日市。

「……」

しばし、光が固まる。

「なんだ、まだ何かあんのか?」

固まった光に四日市が話しかける。

「……いや、美静みせい、よくしゃべるなー、って思っちゃって」

それは私も思ったが。

「……四日市こいつは昔っから勝負師なんだよ」

小さな声で相馬が言う。相馬が四日市のことで口を開くとは思いもしなかったので、更に驚く。

相馬てめぇは何か気の利く言葉でも言いやがれ。私らをボコボコにしたこいつらが滅多打ちさてんだぞ!」

睨むように相馬に言う。

「……健闘を祈る」

相馬はそれだけ言うと、いつものように腕を組み目を瞑る。

「……悪い、光」
「……後は、お願い」

面を外した八神と日野も光を頼り、私も光に謝る。

「な、なんか、物凄いプレッシャー感じるんだけどな~」

成り行きとは言え、なんとなくここは引き下がれない。私が左京右京と勝負を避けた以上、それは必然的に戦わずして総武学園は暁大第三・・・・・・・・・負けた・・・ことになる。

「先に右京からやるそうじゃぁ。準備は良いかねぇ~、光さんやぁ」

「は、はい」と言いながら光はコートの反対側へ向かう。

「「よろしくね、ひ・か・り・さ・ん」」

すれ違う際に左京右京はニタリと笑う。これには光も少し反抗する。

「よろしくね! 左京さん。右京さん。私、弱いけど、一生懸命やるからね!」

光はニコッと笑うが、これは作り笑いだ。怒っているときや気合の入っているときの光は笑っていても、ちょっと怖い。コート内へ入り、礼をして3歩進み、抜刀して、蹲踞。

「はじめぇい!!!」

店長のよく響く声で試合が始まる。試合時間は4分。公式戦と同じ時間で光と右京の勝負が始まった。

「キェェーーイ!!!」
「イヤァーーー!!!」

ジリジリと詰めてサッと竹刀を交える。立ち上がりは互いに様子見で鍔迫り合い。スッと離れて仕切り直し。もう一度互いに詰めて、右京が小手から様子見。ガシッと冷静に光が見切って鍔迫り合い。スッと離れて仕切り直し。しばし、この展開が続く。

(悪くないよ。光)

今の私は光を応援できるような立場ではない。言わば勝負を代わってもらった身だ。しかし、光がやられる姿は絶対見たくない。必然的に心の中で「頑張れ、光」と祈る。

ピシッ!
カシッ!
ダン!
ダダン!!

これと言って激しい打ち合いや、ゆるりとした展開ではない。光はいつも通りの動きで、教わっている通りの突きを中心とした真っすぐな攻め。一方、八神や日野の時と違い、さすがに初見の相手には手堅く攻めてくる右京。硬直状態は続く。

「ツキィーー! メーーン!!」

右京が外れる覚悟の突き技からの面打ち、二段技で光を崩しにかかる。コート端に追いやられた光だが、四日市のアドバイスから無理に勝負へはいかず、右京にくっつき、鍔迫り合いで未だに様子を見る。

「いいぜ。あいつ

相馬も思わず口に出すほど、光には良い試合展開だ。だが、面越しにはまだまだ冷静な右京がいる。自分の弱点を試合中に修正して、下がる癖は未だに顔を出さない。

「くそっ。下がる癖。言わなきゃ良かったな」

四日市が後悔するも、ここは右京の修正能力を素直に認めるべきだろう。結局、互いに譲らず4分の時間はあっという間に過ぎ、光と右京の勝負は引き分けに終わった。


                 続く


 


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