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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の五十二

※其の五十一からの続きです。気軽にお付き合いください。



 結局、宗介そうすけ安条あんじょうの試合は、終盤に宗介が出小手をもう1本取り、2対1で勝利を収めた。公式戦なら流れで、次はひかりが試合をするのだが、今日は先生方の審判講習会。今の2人の試合を先生方が身振り手振りで振り返る。

「馬鹿者! 女子相手だからと手を抜きおって!」

勝ちはしたものの、藤咲ふじさきが宗介を叱る。

「意外に強いんだな。あいつら」

面を外しながら宗介が言う。今の試合も楽勝というわけではない。最後は男子特有の力強さを宗介が引き出し、強引に1本を取った感じだった。

石館いしだて中は雪代こいつの代は面子が揃っていたから常に団体戦も上位にいたんだ! もう少し舐めてたらお前は負けていたんだぞ!」

「わかったよ」と宗介が適当に藤咲の話を遮る。

雪代ゆきしろさん。私の相手の高知こうちって人も、今の人みたいにガンガン攻めてくる感じ?」

先生方はまだ検証しているので、その間に光がアドバイスを求めてくる。

高知あいつはかなりの癖剣だ。勝つためなら卑怯な事も厭わない。剣道スタイルも嫌な奴だよ」

もっとも、高知以外も癖剣で有名だった当時の石館中学。顧問が勝てないなら何が何でも引き分けて、大将の雪代に回せの戦法で、あまり評判も良くなかった。

「なるほどな。それじゃあ雪代おまえ以外の連中などたかが知れている」

藤咲も面を着け始めて準備をする。

「では次! 4人戦だから、中堅の方。試合してください」

主審の号令で光が呼ばれる。

「じゃあ、行ってくるね!」

光が踵を返してコートへ向かう。礼をして3歩。抜刀。蹲踞。

「始め!」

光と高知の中堅戦。互いに気合を入れてジリジリと攻め合う。高知の癖剣は光を大いに戸惑わせるが、そこは急成長中の光。始めこそ戸惑うものの、徐々に自分のペースへと持っていく。

バチン!

「メェェーーン!!!」

光の快心の面は文句なしの1本。光の白旗が綺麗に3本上がる。2本目の号令で、このままではマズいと悟ったか高知も果敢に攻めてくる。

(ん?)

癖剣。無理やりな左右の攻撃。反則ギリギリの体当たり。相変わらず変わっていないなと思うものの、若干の違和感を覚える。

「おい。出鱈目ではあるが、さっきの先鋒と言い、高知こいつと言い……」

藤咲も気づいたのか、面越しに話しかけてくる。

「……うん」

似ている。癖剣の顔は常に出すが、所々で真っすぐした攻めに、真っすぐした打ち。総武学園そうぶがくえん剣道部のスタイルにそっくりだ。

「……この子たち。身なりや態度や言葉遣いはアレだけど、剣道の素材は一級品ね」

琴音ことね先生が横でつぶやく。

「さすが金藤こんどう先生の教えね。癖剣と精神面さえ直せば、この子たちもそうとう強くなるわよ」

相手顧問の金藤先生は、琴音先生の大学時代の先輩。当然、教わってきたことも同じだ。光が優勢で試合を進めていたため、このまま押し切ってもう1本取ろうと欲を出した。

「メェ……!…!!」

バチン! と物凄い音を立てて、高知が気合で返し胴を決める。湧きに沸く石館高校の面子たち。

「ったく!!! 月島つきしまの奴。1本取ってから気持ちよく試合し
おって」

藤咲が若干怒り、若干呆れる。宗介が必死に「ドンマイドンマイ」と一声かける。勝負の3本目。綺麗に胴を抜かれてしまい、光が今度は慎重に攻める。

月島あいつめ! 今更怖気づくなら最初からペース配分を考えて試合しろ。相手に間を与えると、どんどん攻め込まれるぞ」

案の定、光が攻め手を欠くとチャンスと見た高知が攻めに攻めてくる。光の弱点は癖剣や重い打ちの相手だ。攻め気が失せると、どうしてもパワー不足を感じさせてしまう。

「あぁ! 月島! 頑張れ! 負けるなよ!」

宗介も必死に願う。しかし、そこは急成長中の光。相手の逸る気持ちを利用して、冷静に出小手を決める。光も2対1で勝利を収めた。

「ふぅ~。ゴメンね。ちょっと苦戦した」

先生方の検証中に、私たちも簡単な反省会。そして次はいよいよ私の番。高校では琴音先生の配慮もあって、練習試合を含め、ほとんど試合はやっていない。部内戦で少し慣らしていた程度だ。最後に真剣勝負をしたのは、あの全国中学生剣道大会以来だ。

「雪代。今日まで逃げないでよく頑張ってるわ。でもね、必ず自分自身と向き合わなければならない時はやってくるの。おそらく、それが今日。嫌なことだらけだった中学剣道や元チームメイトの仲間たち。ここで手を抜いたり逃げたら、ますます自分自身を取りもどすのに時間がかかる」

面と向き合って熱く話す琴音先生の目は綺麗で素敵だ。それに引き込まれるように、私は頷く。

「あなたは全国をも制する力があるの。私が言っているのだから間違いない。今の仲間も素直じゃないかもしれないけど、本当はあなたのことを認めている。だから……」

琴音先生が一呼吸置く。

「自分を信じて、堂々と試合してきなさい!」

「はい!!」と大きな声で私は返事をした。


                 続く

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