憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の二十八
※其の二十七からの続きです。気軽にお付き合いください。
昂った気持ちが少し冷めて、私は立ち上がる。そのまま後ろを振り返ると全員がビクッ、とした反応を示す。そして再び相馬を見やる。
「……立て。相馬」
息を整えるのに必死な相馬がヨタヨタしながら立ち上がる。
「……て……めぇ……かはっ……雪代響子……」
今ので、ほとんど力を失ったか相馬は壁に寄りかかる。取り巻き3人も静まる。
「もう関わるな。四日市にも、剣道部にも。そして、私は相馬のことは許さない!」
場がシーンと静まる。
「待て、雪代」
藤咲が相馬の前へと出る。
「四日市はこれで自分に決着をつけた。相馬はどうする? 剣道やっていたのかは知らないが、どうしても納得いかないなら四日市と最後は剣道で勝負しろ!」
そして、竹刀をスッと相馬へ差し出す。
「……はぁ……はぁ……ゴホッ……私をなめんじゃねぇ!!」
藤咲の竹刀を受け取る相馬。
「宗介! 鍵は持っているな? 道場を開けろ!」
コクンと頷き、宗介は道場を開ける。
「ついてこい! 更衣室に案内してやる。ただし、今日は私が見張り役だ。神聖な道場で暴れでもしたら、今度は私が許さん!!」
藤咲が先に相馬を連れて行く。
「四日市、これが最後だよ! わたしたち、剣道部が、できることは」
日野が遅れて四日市も連れて行く。
「相馬の取り巻き3人組!!! お前らはどうすんだ! 見学するなら道場入れてやる! 道場内でなにかしでかしたら、どうなるかわかってんだろーな!!!」
八神が凄み、取り巻き3人組は黙って道場へと入る。最後に私が道場へ入ろうとすると。
「……雪代さん。……辛かったんだね」
光が泣きながら私の裾を掴む。
「……ごめん、光。いつかは話さなきゃって思っていたんだ……」
涙を拭いて首をふる光。
「……ううん。今は、四日市や相馬の決着つけなくちゃ」
光と一緒に礼をして道場へと入る。舞台は整った。喧嘩ではなく、剣道場で決着という形で。胴着を来て防具をつけ、互いに面を被る四日市と相馬。
「そ、相馬。お前、剣道やってたの、か?」
「妙に慣れているっつーか……」
「様になっている、よな?」
取り巻き3人組も驚く。どうやら相馬が剣道をやっていたのは本当で、そんな話は一切したことなかったんだろう。手つきは慣れている。
「……別に。言う必要なんかなかったからな。四日市が気に入らねぇのは本当だ」
適当なことを言って誤魔化したようだ。面をつけて互いに向き合う。審判は藤咲と日野と光が務める。時間係は宗介で、八神は取り巻きの見張り。この勝負も、いったいどうなるか見当もつかない。私は最後に四日市に釘を刺す。
「ここまでお膳立てしてやったんだ。卑怯なことは一切するなよ!」
「わかっている」と私を振り切る。礼をして3歩進み、抜刀して蹲踞。
「始め!!」
藤咲の号令が道場に響く。
「キィエーー……」
立ち上がり四日市が気合いを入れる前に相馬がコテ、メンの二段打ち。ガッと鍔迫り合いになり、相馬が力いっぱい押し込む。
「四日市ぃーー!!!」
先日の光と四日市の試合同様、これは剣道の試合ではない。面越しに相馬が叫ぶ。
「私にこんなことさせやがって!! まだ剣道に未練があんのか!!」
力と力で互いに押し合う。刀と刀でしのぎ合いの時代劇を想像すればイメージは容易いか。
「あいつを! ひろきを潰しやがって! あいつはな! 純粋に剣道が好きだったんだ! それをお前は!!」
相馬が更に叫ぶ。
「そんなことわかっている! 仕方なかった! わざとじゃない! 私はあいつのことが……」
四日市も押されぬよう力で押し返す。
「黙れぇ!! てめぇの色恋沙汰なんか聞きたくねぇ!! ざけんなぁ!!」
相馬が四日市の力を受け流して、バランスを崩した四日市に打ち込んでいく。道場にはピシピシッと言った音だけが響く。場外なんかとっくに出ており、審判の藤咲と日野と光は、ただただ黙って見ている。
「……っつぁ!」
力任せに動いていた相馬もバランスを崩す。
「メーーン!!!」
バシン!と四日市のメンが決まる。旗をあげて良いものか、藤咲たちも戸惑う。
「……ひろきはな。将来有望な剣士だった。中学高校で有名になるぐらい。それを、てめぇが『突き』を外して殺しかけやがって!!!」
ハァハァと互いに呼吸が乱れる。2人の死闘に全員が息を飲む。
「突いてみろよ! あの時みたいに!! 思いっきり喉が潰れるぐらいによ!!!」
相馬が竹刀を解く。四日市が固まる。どうやらフラッシュバックに苛まれているようだ。四日市は突きに恐怖を覚えている。先日より謎めいていたことが徐々に明らかになってきた。相馬がスッと上段構えを取る。
「上段は突きが有効打突なんだろ? おらっ! 打って来いよ! 私が憎いんだろ! 突けよ!! あの時みたいに!! 宏樹の喉がかき切れるぐらいによ!!!」
続く