憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の一
【プロローグ】
練習終わりに図書当番とはついてない。図書室を改装するということで今日は奈津美と慎吾も一緒だ。
「あれっ? 沙苗。この棚って、昔の卒業アルバムのコーナーじゃない?」
奈津美に呼ばれて、私は棚の前へ行ってみる。
「本当だ。書庫はあまり入ったことないから、この棚は初めて見たかも」
慎吾がヒョイっと一冊取り出して中身を見る。
「……これ、去年の先輩たちじゃね? この人たち、この間のOBOG会に来てたっしょ」
思い出コーナーやクラスでの記念写真。自由に撮られた卒業アルバムは、まさに青春ピッタリのアルバムだ。
「なんかいいよなぁ~。俺らって部活ばかりじゃね? 毎日毎日素振りして、青春の『せ』の字もねーよな」
慎吾がパラパラめくりアルバムを元に戻す。
「素振りして毎日毎日か~。あながちウチらの青春、程遠い」
奈津美もなんだかガックシくるようにうな垂れる。私は今年、総武学園高校の剣道部に入部した。1学期も終わりに差し掛かる頃には、1年生部員は私と奈津美と慎吾の3人だけになってしまった。先輩たちも数名しかおらず、細々と活動している。しかし、なぜか練習はキツイ。
「あ~あ。早く終わらせて帰ろうぜ! せっかく図書当番の手伝い命じられて練習が早く終わったんだからよ~」
そうは言うものの練習疲れか、キビキビ動けずに私たちはなんとなく古い卒業アルバムを眺めていた。
「んっ? 見て見て、沙苗。これ! 令和5年度卒業だって! 古いわ~、ウケる」
奈津美が急に時代を超えた卒業アルバムを持ってきたので3人で思わず笑ってしまった。
「うわ~、おい。令和も間もなく終わろうとしているのに、令和5年卒かよ。もう30年以上前のじゃねーか」
慎吾がどれどれという感じで開いてみる。
「うわっ! さすがにここまで昔だと、少し色あせているね」
奈津美がパラパラとめくり、大昔のアルバムを3人で眺める。
「んっ? ちょっと待て! これ剣道部じゃね?」
慎吾が手を止める。たしかに部活集合の写真や、部活の思い出コーナーに剣道着や剣道具を身にまとい、写真に納まっている人たち(先輩たち)がいる。
「凄っ! こんな昔から総武学園剣道部ってあったんだ」
私も思わず見とれる。すると奈津美が。
「ねぇ、これって。……2、4、6、7人いるよ」
思わず私も慎吾もピンときた。
「それに、このメチャ美人な先生……」
奈津美が続けて話そうとすると、後ろからガチャっとドアが開き、人が入ってきた。
「……あっ! お、お疲れ様です!!」
3人で姿勢を正して挨拶した。
「あらっ、あなたたち。まだ終わってなかったの」
稽古終わりの琴音先生がゆっくりと戻ってきた。
「すみません! なんか、卒業アルバムに見入っちゃってて……」
琴音先生が老眼鏡をかけてアルバムを眺める。
「……ふふっ。懐かしいわね」
琴音先生は間もなく定年を迎える。これまで一体何人の卒業生を見送ってきたのだろう。
「……あのっ。……琴音先生。……つかぬことをお伺いしますが」
奈津美が恐る恐る慎重に言葉を選びながら質問する。ん~っと言った感じで、琴音先生は眼鏡を軽く直す。
「この、令和5年度卒業のアルバムに映っていらっしゃるのは。……お若い頃の、琴音先生、ですよね……」
「そうね」先生は一言だけ言って、その場がシーンと静まる。そして、慎吾も恐る恐ると質問する。
「……それと。この、7人の先輩方は、あの、その……」
確証があったわけではない。7人の同級生など、いつの時代もあったと思う。だが、このアルバムに映っている7人の先輩方からは、それ以上に何かを感じる。琴音先生は意図を察してくれたようで。
「……七剣士。周りからは、そう呼ばれていたわね……」
やはりそうだ。私たちはあまり聞いたことはなかったが、たまに2、3年生の先輩たちが言っていた。
「総武学園の……。七剣士……」
私が言うと、再びその場は静まる。琴音先生が、ふっとほほ笑んだ。
「すっ、凄い!! この人たちが!! あの伝説の七剣士!!!」
奈津美は、もう興奮冷めならぬ様子で発狂する。慎吾も、すげーすげーと語彙力なくして騒ぐ。私はゆっくりと卒業アルバムをめくる。
「……なんか、みんなメッチャ笑顔ですね」
写真に写る一枚一枚は、七剣士の笑顔が弾ける。琴音先生は懐かしそうにアルバムを眺める。
「……本当。懐かしいわ」
写真を見ていると、本当に仲が良さそうなのが伝わってくる。
「七剣士って、みんな仲が良かったんですね!」
奈津美がまだ興奮した状態で琴音先生に尋ねる。
「う、う~ん。……仲、良かった、のかな、あの子たちは」
なんか、歯切れが悪い。こればっかりは琴音先生も苦笑いをしていた。ここまで話したら、私も気になる。
「琴音先生。……聞かせてくれませんか? この時の、総武学園剣道部のこと。七剣士って、どういう人たちだったんですか?」
奈津美も慎吾も興味津々で琴音先生を見やる。
「……そうねぇ。少し長くなっちゃうかもしれないけど……」
図書当番の仕事は、だいたい終わらせたのでもういい。椅子にゆっくり座る琴音先生の言葉を待った。奈津美が急いでお茶を入れる。
「昔のことだから、どこまで覚えているかわからないわ。けど、少し記憶を戻して、この頃のことを思い出してみましょうか」
七剣士の物語。いったい、どんな人たちだったんだろう。
続く