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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の四十五

※其の四十四からの続きです。気軽にお付き合いください。



 間もなく夏休み。1学期最後の授業も終わり、クラスの雰囲気は夏休みモード全開。そんな中、私の机の前で腕を組み、恐ろしい形相で見下ろしてくる女が1人。

「私と付き合え。雪代ゆきしろ
 
聞き間違いか。付き合えとは?清く正しい男女交際の申し込みか。いや、告白だろうか。

「なんだ、その目は? 聞こえなかったのか? 私と付き合え」

いや、こいつは男じゃない。うん、女だ。クラスは一瞬にしてシーンとなる。なんで一般のクラスにスポーツ推薦の生徒が乗り込んでくるのだ。しかも、鬼のような形相で私と付き合えと。

「……ハァ。あのさ、ここ、道場じゃないんだけど?」

私は呆れて肘をつき答える。

「そんなことはわかっている! 今日はこの後、A班、B班、別々の場所での練習メニューだ。私はA班で他校へ行って練習試合だ」

主語飛ばしすぎだっつの。私と彼女の関係は相変わらず入学から変わらない。多分、この先もだ。

「付き合えって、何の用事よ。藤咲ふじさき

藤咲莉桜ふじさきりお。まぁ、小学生時代からの宿敵だ。間違っても、私とこいつで、「あははっ」だの「うふふっ」だの百合百合しい関係にはならない。『絶対』に。

「夏休み入って最初の日曜日は練習がオフの日だ。その日、お前の家に行く」

はっ?今、何って言った?藤咲のその言葉にひかりが即座に反応。

「えっ!? なになに!? 藤咲さん、雪代さんの家に遊びに行くの? いいなぁ! 雪代さん、私も行きたい!」

目を輝かせて光が食い付く。

「馬鹿者! 誰がこいつの家に遊びに行くものか! 迎えに行くのだ!」

話がさっぱり見えて来ない。

「いや、藤咲! 最初から話せ! それと、ここは私たちの教室だ。あまり威圧的な態度は取るな」

周りはすっかり怯えて引いている。スポーツ推薦組は一般組と違って怖いイメージがあるらしい。

「今度の日曜日の午前中に迎えに行く。防具と竹刀の手入れはしっかりしておけ! それと」

藤咲が光と宗介そうすけを見渡す。

「今回に限っては月島つきしま北馬ほくば! お前たちの同行も許す。雪代と仲良しなお前らなら、ダメと言ってもついてくるんだろう」

「なんで俺まで!」と宗介が食い下がるが、後は「防具は持って来い」と言って藤咲は教室から出ていった。

「なんなんだ! あいつは! いつもいつも自分の言うことだけ言って! 可愛くねぇ女だな!」

宗介が怒り心頭で言うも、光が。

「……宗君。藤咲さんのこと可愛いって、思いたいの?」

光がちょっと膨れて宗介に文句を言う。

(あ~、もぅ。そこら辺は2人でやってくれ)

ともあれ、理由もわからずに話が進んだ。そして、夏休みに入って最初の日曜日。

(今日ぐらいしかまともな休みないんだよなぁ。あとは練習と試合と遠征と合宿と……)

夏休みは嬉しいが、剣道三昧な夏。あぁ、私の青春とは。キンコーン♪と家のチャイムが鳴る。

響子きょうこ? お友達? が、来てるわよ?」

母親から物珍しい声を出されて、ゆっくり下の階へと下りて玄関へと向かう。

「なに? 響子? お友達来るなんて小学生以来じゃない!」

人が我が家を訪ねてくるのも久しぶりなので、母親が先に出てしまった。

「あっ! ちょっと! お母さん」

予定通り、藤咲と光と宗介の3人が玄関前に立っていた。

「あっ! おはよー! 雪代さん!」

光がいつもの笑顔で手を振り、宗介は何となく気まずそうにして、藤咲は丁寧に母親に自己紹介をする。

「まぁまぁ、いつも響子と仲良くしてくれてありがとうね。この子、剣道部に入ってから高校生活が楽しそうで」

こんなことは滅多にないので、母親も嬉しそうに3人と話す。

「お母さん。もういいでしょ! 暑いし中入ってて」

言うものの、光や小学生の時から顔を知っている藤咲と話が止まりそうもない。ふと宗介と目が合う。

「あれ? 3人共、制服で来たの? 防具と竹刀はともかく」

なんでも制服の方が都合が良いらしい。仕方ないので急いで私も部屋へと戻って、制服へと着替える。

(何なのよ。一体)

制服に着替えて防具と竹刀を持てば、出稽古に行くようなものだ。

「響子。今度は皆さんに上がってもらいなさい」

ニコニコ顔の母を適当に後にして、藤咲についていく。

「で! そろそろ教えてくれても良いんじゃない? 休みの日に制服着て防具持って、これじゃあ、この間の相馬そうま四日市よつかいちの買い物と同じじゃない」

つい先日の日曜日も、せっかくのオフの日に出向いたと言うのに。

「しかも、また防具まで持って……」

そこまで私が言うと。

「貴様! 黙って聞いてれば文句ばかり! 剣道部に入った以上、竹刀と防具はオフ日でも必須品だ!」

等々、ここからいつものように私と藤咲こいつとで言い合うのだが。

「私はな! 中学時代! お前に負けて全国大会へは行けなかったんだ! 高校では必ずインターハイへ行く! その為には休んでなどいられんのだ!」

それを言われて、何となく「悪かったわよ……」と私は言う。

「でも、雪代の言う通りだぜ! そろそろ行き先ぐらい教えろよ!」

宗介が流石に面白くなさそうに言うと。

琴音ことね先生も現地で待っている。事情はバスの中で話してやる」

琴音先生もいるのか。なんだか、少し大変そうな1日になるような予感がする。


                 続く

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