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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の三十六
※其の三十五からの続きです。気軽にお付き合いください。
桜宮と名札に記されている2人がこちらを見る。
「あっ! あいつら!!」
八神が甲高い声を上げ、日野はもの凄く嫌そうな顔をする。
「うぇ~、なんで、いるの~」
「一旦休憩しよう」と江頭兄弟の号令で4人は竹刀を収める。面を取って2人はこちらへ向かってくる。
「あらら」
「久しぶりじゃない」
「八神と」
「日野」
同じ顔と同じ声。双子の桜宮姉妹。都内でも有名な選手だ。
「少しは」
「腕上げたの」
「まぁ」
「私たち双子の桜宮に」
「あなたたちは」
「いつまでたっても」
「勝てないでしょうけど」
「くすすっ」と右手と左手で口元を押える2人。
「チッ! 相変わらず同じ顔と同じ声しやがって! お前ら一体、何してやがる!」
八神が面白くなさそうに吠えると。
「相変わらず」
「野蛮」
「野獣の間違えでは? 左京」
「男勝りぐらいにしてあげな? 右京」
左京と右京と呼び合う2人。
(そういえばなんかいたな、こんなの)
中学の大会で見た記憶がある。
「今日は何しに来たのかしら」
「龍一さんと」
「龍二郎さんは」
「忙しいの」
「思い出話している」
「暇はないのよ」
八神の堪忍袋の緒が切れたか、いつも以上の声の高さで反撃する。
「うるっせー!! ここで会ったが100年目だ!! 勝負だ!! 今度こそやっつけてやるぜ!!」
八神が声を上げれば上げるほど、双子の姉妹は面白そうに、それにて小馬鹿にしたようあざ笑う。
「古都梨! ビビんな! 今までの借り、今日ここで返そうぜ!」
「……ううん」と少し自信なさげな声を出す日野。
「日野」
「相変わらず」
「八神のオマケ」
「チビで」
「メソメソ泣いている」
「いじめられっ子」
「くすすっ」と再び左右揃って同じポーズ。
(こいつら、絶対性格悪い)
この4人はどういう関係かわからないけど、どう見ても友好的ではない。すると光が。
「雪代さん、雪代さん」
ちょっと小さめの声で、私の耳元でささやく。
「覚えてないの? ほら! 暁大学付属第三中等部にいた、あの桜宮姉妹」
暁大第三と言われて私は思い出す。
「あーー! あの双子か!!」
思わず声を上げてしまった。2人の見る目が私へと切り替わる。
「その声」
「その顔」
キッと見る目がきつくなる。
「やっぱり」
「雪代響子」
「でも?」
「なんか違う?」
「こんな」
「弱弱しい」
「姿形では」
「なかった」
完全に思い出した。石館中学3年生の都大会個人戦決勝戦。その相手がたしか。
「桜宮左京」
左京が自分を名乗る。私が優勝。そして左京が準優勝で共に全国中学生大会へと出場した。東京都代表で私が個人戦ベスト8。左京がベスト16。
(……だったよな? たしか)
あまり覚えていないが。すると表情を見透かされたか。
「あまり覚えてないようね」
声のトーンが逆に一段下がる。そして右京が。
「左京と私は一心同体。個人戦でも共に全中へ行く予定だった。お前たちが邪魔をしなければ」
この右京は都大会で個人戦ベスト8止まりだったはず。その相手が。
「忘れもしない。藤咲莉桜」
沸々と姉妹の怒りが上がっているのを感じる。
「私たち姉妹で」
「決勝戦を争い」
「共に全中へ行く」
「その邪魔をしたのが」
「雪代響子と」
「藤咲莉桜」
どうやら完全に戦闘態勢へと入ったようで。
(……と、言ってもなー)
正直、決勝で左京と戦ったが、1分も経たずに私はメンを2本決めて優勝した。準決勝で戦った藤咲との対戦の方がよほど大変だった覚えがある。
「舐められたものね」
左京が呆れ半分、怒り半分で私を見据える。その左京は団体戦ベスト8の大将戦で当時、江戸川第五中学の大将だった藤咲に勝利、続くベスト4での大将戦も、当時の入江中学の大将だった八神を破り、勢いそのまま決勝戦でも完勝(決勝の相手は忘れた)暁大付属第三中等部が優勝。結果、姉妹揃って全中へと出場した。右京は当時、団体戦で副将を担っていた。そして、団体戦は全中でベスト4まで勝ち進み、桜宮姉妹は名実共に都内で有名選手へとなった。
「八神の言葉を借りるわ」
「雪代響子」
「私たちと」
「勝負なさい」
「ここで会ったが」
「100年目」
不敵な笑みを浮かべる。嫌な連中と会った。今日は四日市と相馬の防具を買うためについてきただけであって、かつての旧敵と戦うためにここへ来たのではない。なにより、今の私は剣道のすべてにおいて自信がない。中学時代の自分はもういない。それも見透かされたようで。
「なに」
「まさか」
「自信がない」
「とでも」
「言わない」
「わよね?」
明らかに見下されている。私が困った表情を浮かべていると。
「おい! なに勝手に話を進めてやがる! ひ弱い今の雪代からかって楽しいか?」
八神が再度、桜宮姉妹に突っかかる。
「八神? いつの間に」
「雪代と」
「仲良くなったの」
「昔は一緒に」
「打倒雪代!」
「合言葉だったじゃない」
どうやら、今回もめんどくさそうな話の展開になりそうだ。
続く