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マイネームイズフェアリー【坊っちゃん文学賞☆落選作★】ショートショート

私は許せなかった。
この感情をどこにぶつけていいものかわからなかった。
    この、やるせなさ、呆れ。

「たこやき ~カルボナーラソース味~ ってなんだよ!」
この資本主義め。
なんでもかんでもちょっとトリッキーなものをつくればヒトが食いつくと思いやがって。
日々のストレスもあってか、余計に腹が立つ。
そうやって立て看板を睨みつける不審者がひとり。
「食べてみれば?」
女の子の声に振り返ってみた。

「そんなに気になるなら、食べてみたら?」

今度は肩から声がした。ちょこんと肩に乗る女の子?
「ゔんん。ハーイ、マイネームイズフェアリー。」
なぜか仰々しく咳ばらいをして、演技めかしい口調。彼女はフェアリーだという。
「えっ、別に食べたいわけじゃ」
「ならなぜそんなに見つめていたの?」

あなた、きっと好きなのよ

————えっ?

きっと好きなのよ、彼のこと。
カルボナーラ味のこと?
そう。

私、彼のこと好きだったの————?
どうしよう、気づいてしまったらどんどん彼から目が離せなくなる。最初の怒りは何だったの。胸の鼓動が速くなる。
何に対しての怒りだったのかは、もはや今となってはわからない。さっきまでの自分自身が嘘だったかのように消え失せてしまった。
途端に彼のカリカリとした肌、とろけるカルボナーラソースがキラキラして見える。なんてホットなの!
私ったら面食いだったのかしら。

「すみません、たこやき〜カルボナーラソース味〜ひとつください」
ふっと肩の重さが消えた。
それよりも今の私には袋に入った、香ばしい香りがする彼のことしか考えられなかったのだった。

「私は、フェアリー。ラヴ&ピースのフェアリー。」


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2025/01/30 改行などの内容変更をいたしました。

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