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★006 墨子「辭過」

【現代語訳】

昔の人間は丘に穴を掘って住んだが、湿っていたので病気になった
そこで聖王が建物を教え、床を上げ壁と屋根を設け
男女の礼を分ける程度の質素な王宮を造った
民に過剰な賦役や税を課すことはなかった

しかし今では、重税を課し民から奪い、豪華な王宮を造っている
君主がそうなので臣下も真似をし
凶作に備えておくとか、孤児や寡婦の救済をしない
国を治めるには、王宮の建設に節度が必要である

昔まだ動物の皮を着ていたころ、とても重く
冬には寒いし、夏には暑く、そこで聖王は絹や麻を広め
冬に温かく、夏に涼しいのに十分な質素な衣服を作らせた
しかし今では、冬に温かく夏に涼しい服はもうあるのに
重税を課して金銀宝石、きらびやかな装飾を民に作らせている
君主が見栄えばかりを気にするので、民の風紀も乱れている

昔まだ調理を知らなかったころは、食材をそのまま食べ
分散して住んでいたが、聖王が料理を作り、農業を教え食文化を作った
体を強くし腹を満たすのに十分であればそれで止めた
しかし今では、重税を課して美食に走り、食べきれないほど並べて腐らせる
君主がこうなので臣下も真似をし、孤児や寡婦は飢える

昔まだ船や車が無かったころ、重いものを遠くに運べなかった
聖王が質素な船や車を作り、民は便利になった
しかし今では、もう便利なのに、重税を課して船や車を飾り立てる
そのために女性は紡績作業を止められて駆り出され
男性は農作業をやめて駆り出され、服も食料も不足している
君主がこうなので臣下も真似し、国は飢えと寒さに苦しみ
民は犯罪を犯し、刑罰を厳しくするほど治安が悪化している

この世の天地の道理は陰陽の和合にあり
聖王といえども男女の欲望があったが、行いを損ねることはなかった
しかし今では、王宮に美女を詰め込んで、民の男は多く独身者で
少子化になっている、これでは国は発展しない

これら、建築・衣服・食事・乗物・情欲は
聖人の倹約と節度のなせるところで、小人の溺れるところである
快楽に溺れず、倹約と節度が大事

【コメント】

なるほど、豪邸・ブランド服・美食・高級車・セックスと
人間はつくづく変わらないんだなと

例によって、見たこともない古代の理想社会を根拠にする
争わず贅沢をせず、穏やかに生きるのが墨子の基本思想のようだ

上級国民が贅沢する一方で、シングルペアレント家庭が困窮するのも
今も昔もなのね

食べきれないほどの食事を作って残して捨ててしまうのも
現代のフードロスもそうだし、古代ギリシャ・ローマでも
食べかけを床に捨てる様子がモザイク画に描かれていたりする
現代中国でも、食べ残すのがマナーなのを変えようとしている

もうすでに便利な乗物を贅沢にすることで
他の産業が圧迫されて衣服や農業生産が減るというのも
必ずしも単なる風が吹けば桶屋が儲かる方式ともいえず
一定の社会資本の偏在が昔もあったのだろうと思われる

とはいえ、人間とテクノロジーの問題は根深い
新しい技術革新があるたびに、不要だ論は常に歴史上あった
今はAIがいちばんそうかな
ただ絶対に人類全体はテクノロジーに勝てなかったことだけは間違いない
若い世代はそれが当たり前として育つし
老害が何を言っても社会は必ず変わる
一定の便利さで留めることなどおそらく絶対に無理だ
これは倫理ではなく、歴史が証明している

人類はつくづく変わらない
.


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