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400字エッセイ

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風と音、コーヒーと本

カーテンが揺れていた。外に干した洗濯物も揺れていた。洗濯物が飛んでいく心配がないくらいのちょうど良い加減の風量であることがわかる。光が差しこんでいた。初夏の眩い日差しが、昼寝用に敷いていたベージュ色の布団と薄緑色の畳を照らしていた。 読んでいた本を閉じ、読書で疲れた目をもみほぐした。ソファーの肘掛けにバランスよく鎮座するコップを手に取り、冷たくなったコーヒーを一口、そしてもう一口飲んだ。 ソファーから立ち上がり伸びをした。爪先立ちで足首を伸ばすと関節がゴギゴギと大きな音を

このままでいいのかな

一瞬一瞬をダンスするように生きていきたい。過去に囚われず、未来を恐れず、今この瞬間に焦点を当てたい。それでも「このままでいいのかな」という考えが頭をよぎる。家族や仕事、住居や人間関係、本当に今のままでいいのかな。他者との比較によって頭に浮かんでしまう考えなんだろうけど、人として生きている以上、他人と自分を比べないということほど難しいこともない。 これは避けられないのだろうか。いくつになってもこの考えに遭遇するのだろうか。こういった考えが浮かんで不安になるのを避けるために、内

「〜すると良い」への対応

最近、多くの「〜すると良い」を詰め込みすぎていた。 知らない人とも積極的に会うと良い、1人の時間を大事にすると良い、毎日1つ新しいことに挑戦すると良い、いろいろな本を読むと良い、もやもやしたときは書くと良い、一心不乱に仕事に向き合うと良い、たかが仕事くらいの気持ちでいると良い。 多少の矛盾を無視しながら、あらゆる「〜すると良い」をインプットし続けていたら、メモリーエラーなのか処理エラーなのか知らないが、頭も身体もぼんやりして重苦しい気分でいることが多かった。まるで身体全体

アドバイスを与える側の責任

友人が夕食抜きバージョンの16時間ファスティングを実施しているというので、親切心からか単に知識アピールがしたいからか(おそらく後者)、「夜に炭水化物を摂らないと睡眠の質が下がる」といったアドバイスを聞かれてもいないのにしてしまった。直後に今の発言撤回したいと思っても遅い。この単なる自己満足のアドバイスは、小さい範囲ではあるだろうが、友人の脳内に刻み込まれただろう。 大学で睡眠に関する講義を受講していた際、教授にもらったアドバイスが忘れられない。それは「夜遅い時間に強い光を浴

五月晴れの日に太陽を感じる

すれ違う人と「気持ちのいい五月晴れですね」と声を交わしたくなるような日が続いている(本来は梅雨時の晴れ間を指す言葉であることをnoteを書きながら知る)。 ポカポカした陽気に我慢できず、寝具一式を洗濯して外の物干し竿にかけた。かけられた布団は、ぬくぬくした太陽の日差しに包まれながら、サラサラとした強すぎず弱すぎない風を楽しんでいる。太陽の光を浴びると元気が出てくるのは人間だけじゃないようだ。両手を広げて少し大袈裟に伸びをした。 雨に濡れたり風でとんでいってしまうことを心配

小豆を煮るくらいがいい

甘いものが大好きな友人への引っ越し祝いに、あんこを作ることにした。発酵あんこ作りにのめり込んでいた際に買った小豆がいっぱい残っているから全部煮てしまおう。砂糖も普段の調理であまり使わないので、この機会に消費してしまいたい。 合計600gほどの小豆を煮こみ、350gくらいの砂糖と2つまみの塩で味をつける。甘さ控えめのあんこができた。発酵あんこではないため、最初の渋切りさえちゃんとやれば失敗は少ない。 完成後のあんこを見て初めて作りすぎたことに気づいた。味見を繰り返して量を減

1gオーバー

ゆうちょの口座を開設するために郵便局に向かった。ネットからの申請もできるけど、結局郵送が必要になって面倒なので直接郵便局に来た。 通帳の有無、本日中にお金の引き出しや振込をする必要があるか、もうすぐゆうちょのアプリがリリースされるなど、いくつもの変数を交えながら、郵便局員さんは丁寧に説明してくれた。 隣では男性が郵便物を送りたいようだ。配送物を計ると、予想していた料金規定の重さを1gオーバーしてたらしい。男性はとても悔しがっていた。誰に文句を言うでもなく、楽しそうに悔しが

歩くこと

歩くことが好きだと言っている割には、最近あまり歩いていなかった。川根本町に来て以来、徒歩で出社しているから、毎日の通勤で自分の歩きたい欲望がそれなりに抑えられているんだと思う。横浜で勤めていたときは、勤務後に近くの公園周りを毎日歩いていた。15分の目的のない散歩を楽しみにしていた自分がいた。 通勤で歩いているとはいえ、通勤には出社するという目的がある。目的のない、ゆっくりできる、ある意味どこかをさまよっているような散歩から、永らく遠ざかっていた。 GWを機に、無目的の散歩

旅先への移動と旅先での移動

旅先への移動手段にこだわりがない。飛行機も電車もバスも自転車も、それぞれ個人的に好きな点、嫌いな点がある。 飛行機は、移動時間の短さと空の景色が好き。空港までの移動とフライト時刻に縛られるのは嫌い。 電車は、(移動時間にもよるが)ゆっくり本を読めること、駅弁を楽しめること、車窓の眺めをぼんやり見ながら黄昏る自分に酔うことが好き。新幹線を使うと一気に費用が跳ね上がることが嫌い。 バスは、費用が安いことが好き。移動時間の長さが嫌い(バスよ、好きなことが少なくてごめん!)。

旅に求めるもの、求めること

おそらく、僕が旅に求めていることは「非日常」なので、旅先の条件とかは特にない。強いて言うなら旨いものが食べたい。地元の名産である必要はなく、地元民に愛された店である必要もない。旅先で感じる「あれ食べたい、これ食べたい」を満たしてくれたらそれで充分。 宿泊先もこだわらない。基本的には旅に出る前に宿を予約するので、宿のグレードは予約する際の自分の気分とお金に対する意識に依存する。ただ、できるだけ朝食バイキングが付いているホテルは避ける。というのも、朝食バイキングの満足感が、食べ

ふらっと旅

ふらっと旅に出たい衝動に駆られることが年に数回ある。このふらっと旅に出たい欲は、旅を心底愛しているわけでもない僕に対してもそれなりに強い重みで、それなりの頻度で押し寄せるので、旅好きの人は大変だなとたびたび思う。 観光地をめぐってもすぐに疲れるし、そもそも人が多い場所は得意ではない。食べるのは好きだけどいわゆるグルメではないので、旅先でも普通にコンビニを使う。疲れたらホテルやスタバで本を読んでることも多い。歴史に造詣が深いわけでもないので、歴史的建造物を目の前にしても感嘆の

良いも悪いもないこと

カナダ留学で学んだことは多いが、その中でもずっと頭から離れない話がある。 中国出身の友人が「スマホ忘れてきた。友人に電話したいからタケのスマホ貸して」と言うのでスマホを渡すと、彼は迷うことなく番号を入力して友人に電話をかけた。 「電話番号覚えてるのすげえ」と伝えると、彼は「そんなの当たり前」と言いたげにキョトンとした顔を見せてくれた。 「僕は誰の番号も覚えてないなー」と言うと、彼は「家族や恋人の番号も?」と詰め寄ってきた。実家の固定電話番号は覚えているけど、家族の携帯番

「社会の歯車」という表現を変えたい

「社会の歯車」という表現は実に響きが悪い。マイナスのイメージが強すぎる。少なくとも、ポジティブな意味合いで受け取る人に出会ったことがない。誰もが「社会の歯車にはなりたくない」ように感じる。 一方で、誰もが「人間は一人では生きていけない」と思っている。モノとサービスが世界中で行き交う現代では、この考えを否定することは難しい。 そして、「人間は一人では生きていけない」と「社会の歯車」は同義だと思う。一人一人が世界を創り上げている。もちろん、世界を創り上げているのは人間だけでは

なりたい自分に近づくために

正直でいる。常に感謝の気持ちを持つ。理解されようとする前に相手を理解する。 自分が大事にしていきたいと日々思っていることは、どんどん周りに発信していきたい。家族や友人含め、同僚や仲間に自分の核となる考えを伝えていきたい。 今の自分がそれらをすべて達成しているかどうかは関係ない。むしろ今の自分が達成できていないからこそ、こういう人物像を目指しているんだということを伝えることで、周囲の人が良い意味で自分を監視してくれる。矛盾した言動をした際、気の置けない仲間は注意してくれる。