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セミヨンな女

赤ワインの品種であるメルロが陰の色気があるとしたら、セミヨンは陽の色気を持つ。
セミヨン。白ワインのぶどう品種。フランスのソーテルヌでは極上の甘口を持つ貴腐ワインを生み出し、銘醸地ボルドーの辛口白ワインと言ったら、セミヨン主体のソーヴィニヨン・ブランのブレンドだ。「ボルドー・ブラン」と呼ばれることは、ワインをかじったことがある人なら誰もが知っている。シャルドネと似ていて、オーク樽にも恍惚感を持って抱かれ、クリーミーさを生み出す。比較的、栽培が易く、世界中で育てられている。写真のようにマスカットのような黄緑色の薄い皮を持つ。
セミヨンは三大貴腐ワインの1つ。ドイツのリースリング種で作られる「トロッケンベーレン・アウスレーゼ」や、ハンガリーのフルミント種で作られる「トカイ・アスー」、そしてシャトーディケムを代表とするフランスのソーテルヌ。セミヨンの薄い皮は貴腐を生み出す、ボトリティス・シネレア菌を受け入れやすいのだ。
この菌が特定のブドウ品種に付着すると、適度な乾燥など条件が揃った場合「のみ」、皆が羨む極上の甘口ワイン=貴腐ワインを生み出す。雨など湿度が高い日が続けば、「貴腐」へは昇華せず、単なるレーズンのような「腐敗」となる。つまり、いちかばちかなところがあるのが、「貴腐ワイン」なのだ。
このボトリティス菌というカビの一種は、砂の数ほどいる男と例えてもいい(あら、ここで怒ってはだめ。男なら寛容であれ)。

出会った男が自分を貴腐へと導くいい男か否かー。こればっかりは、自分がいい女かどうかだけでは語れない。運も多分にあるし、組み合わせ、環境もある。数多ある「こうすればうまくいく!」な成功論が万人に当てはまることはない。子育ても恋愛も結婚も、ごく一部の経験で講釈を垂れる人は苦手だ。

貴腐になることで、糖度が上がり、酸が低下してしまう。もしかしたら、自分の柱である酸がぐらつくことで、リースリングは自分へ苛立つ瞬間があるかもしれない。当然だ。私なら、気がつかないうちに菌が付着してない限り、菌がつかないように逃げ回るだろう。

ただセミヨンはどこかの時点で、早々に悟りを開き、この菌を全面的に受け入れる印象を与える。冷静に淡々と、しかし愛を持って。場合によっては失敗に終わるかもしれないのに、男のありとあらゆる良いところを発見し、交りを心から愉しめる。貴腐へと導く力のない菌だとしても、「もしかしたら化けるかもね」とニコニコと受け入れる。しかし、未来はないと判断を下したその瞬間、バサリと笑顔で切り捨てるのだ。もちろん、そこには痛みを伴うが、切り替えも早い。

セミヨンな女は、寛容だ。男がくだらない下ネタを話しても、決して眉をひそめたりせずに、「男って可愛いよねー」と同じように下ネタで返してキャッキャと笑う。ここまで「陽」な女は他にいないし、それによって男は安らぎ、自分を晒け出せる。

コスプレがしたい? あんなことやこんなことをしてみたい? 「じゃあ、やってみようか♡」とセミヨンな女は、満面の笑みであなたを受け入れるだろう。そういう点で、母性が一番あるのはセミヨンなのだ。

考えて見たら、こんな博打なことを受け入れるなんて、貴腐になるブドウというのは、みな、相当な度胸があるし、最上級の褒め言葉で表現するなら「変態」なのかも。どっちに転がるかわからない状況を愉しめるのだから。

セミヨンもリースリングも、フルミントもシュナン・ブランも。貴腐な女はどこか男女の狂気を愉しんでいるように見える。だから、最上級の貴腐ワインには、私はいつもひれ伏してしまうのだ。

美しき女神たちよ。

どうか慈悲の心で、私に甘美な一滴を垂らしてください。


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