la saki
女は喉が渇いていた。 水や珈琲を欲していたわけではないので、 正確には心地よい酔いが欲しくて、喉が渇いていた。 女はウオッカが好きだった。 不純物を徹底的に取り除いたお酒。 海水から塩の結晶を取り出したかのようなそれは、 太陽の光に当たると宝石のように煌めく。 純度の高いその思考は、言葉で物事をこねくり回したり、美辞麗句で飾ったりしない。 浅はかな自我が作り出した私の言葉らしきものたちを、上から嘲笑い、どこかへ消える。 高熱ともいえる40度のウオッカをひとた
「発酵を知る? なんのことかさっぱりわからない」 うん、そう。わからないの。わからないからいいの。 私は思う。 お酒の蘊蓄を語る前に、できうる限りの想像力で発酵の神秘に想いを馳せること。それがお酒を愉しむ上でのちょっとした礼儀なんじゃないかって。 「わかる」「わからない」じゃない。 「お酒に強い」「弱い」「飲めない」でもない。 少なくとも「お酒なんて酔いをもたらす単なる飲料でしょ?」なんて感想は、あまりにも品性がなさすぎる。 お酒はすべて「発酵」ありきだ。 発酵したお酒
桜という女は、たった1人の男に愛されたかった 彼女は、田舎の見晴らしだけがいい丘で、ポツンと佇んでいた そこに変わらず居続けることが天命だと、彼女は思っていた 桜吹雪のある日、1人の男が近づき「あなたはとても綺麗だ」と抱きしめた 最初こそ躊躇していたが、次第に鎖が溶解し、桜は数百年の眠りから覚めたように咲き乱れた 誰かに簡単に染まる白ではなく、自己主張ばかりの強い原色ではなく、誰にも侵略されない薄紅色が最も美しい その感性をわかってくれる人が存在したことが、何より嬉しかった
小さい頃、父の仕事の都合で転校ばかりしていた。 小学校だけで4校、中学校は2校。 海外に住んでた時期もあったが、その時でも別れは辛く、日本に戻っても新しい生活は、人間関係が全てであった子供にはなかなかキツかった。 いつもどこか旅人のように、物事を俯瞰して見てしまうのは、もしかしたらこの時の経験があるのかもしれない。ホームの感覚が弱いタイプだと自覚してるし、スナフキンが小さい頃から好きだった。 転校する旨は大抵おそらく1、2ヶ月前から親に告げられる。最初はショックを受け涙し、
チャー(Char)って知ってる? ウイスキーを入れる樽というのは必ず内面を火で焦がすの 直火ですることをチャーといい(バーボン樽)、遠赤外線で熱するのをトーストという(ワイン樽) 必ず焦がすの 意外と知られてないのかもしれないけど、 あの美しい琥珀色はこの工程があるからこそであって、真新しい樽にいれたところで、それは熟成した焼酎であり、ウイスキーではない 樽に入れる前の原酒は「ニューポット」といってアルコール度数の高い焼酎 蒸留所とかで試飲できるけど、比較として意味がある
シングルモルトウイスキーが神の寵愛を受けた酒だとしたら、 ラム酒は女神、厳密に言うと歌と踊りの女神、テルプシコラーに愛でられた酒だ。 私はこれに確たる根拠がある。 ラム酒。Rum, Rhum, Ronー。サトウキビを原料として作られた無色透明(多くが)の蒸留酒(スピリッツ)。キューバを初めとするカリブ海諸島で発展したが、植民地支配の影響がその酒造りに色濃く残る。スペイン領だったキューバはバーテンダーが愛してやまない「バカルディ」ホワイトラム発祥の地(国営化を恐れて移転したら
もし私がバーで一人、自分の世界に浸りたい夜があったら、 迷わず、シェリー酒を選ぶだろう。 これが、ど定番のカシスオレンジのようなカクテルだとか、生フルーツをいっぱい纏ったカクテルなら、羽毛より軽い不埒な男がたやすく声をかけてくるに違いない。お酒に向き合わず、時折スマホでも触ってみせれば、「声を掛けて」と言わんばかり。そこで声を掛けてくる男は、その一夜、隣でニッコリ微笑んでくれる女がいたらいいの。私である必要ないわ。 ウイスキーなら、ちょっとだけハードルが上がるだろうが、
〇〇な男というより、「ウォッカの要素を持った男」が正しい気がする。 シングルモルトな男にも、バーボンな男にも、焼酎な男にも、持ちうる要素。私を苛立たせ、中毒にさせる要素。具体的に言えば、「ウォッカの要素を持ったシングルモルトな男」がどうにも好きだ。 ウォッカは透明のスピリッツ。ジン、ウォッカ、テキーラ、ラムが世界の4大スピリッツと言われる。ジンとウォッカは無色透明で似ているが、ジンは薬草成分が感じられる「足された」酒であるのに対し、ウォッカは白樺で濾過することで、「引かれ
若さとはエネルギーであり、栄養だ。鮮度だけで若さを判断しがちだが、身体中に行き渡る活力こそが、若さだ。つまり80歳になっても「若さ」は放出できるし、10代でも無気力な人からは「若さ」を感じられない。年齢とは如何に愚かな指標だということに気が付くだろう。ちなみに、納豆パフュームは発酵食品でもあり、熟成を経ているので発言ほど若くない。人間でいったら30代後半だ。 そう言って颯爽と現れたのは、この冷蔵庫の10%は占める自家製味噌の「味噌BOSS」だ。いきなり「味噌BOSS」と言わ
「母性」を体現した品種。それがメルローだ。 メルローは赤ワインの品種。単一品種で作られることもあるが、カベルネ・ソーヴィニヨンとのブレンドが有名だ。ワインに精通していなくとも、フランスのボルドー地方の5大シャトー、「Ch.ペトリュス」「Ch.ムートン・ロスチャイルド」「Ch.オーブリオン」「Ch.ラトゥール」「Ch.マルゴー」はどこかで耳にしたことがあるだろう。 これらの銘醸地のワインを含め、ボルドーワインは強くしっかりとした骨格のカベルネ・ソーヴィニヨンと、ふくよかで全
赤ワインの品種であるメルロが陰の色気があるとしたら、セミヨンは陽の色気を持つ。 セミヨン。白ワインのぶどう品種。フランスのソーテルヌでは極上の甘口を持つ貴腐ワインを生み出し、銘醸地ボルドーの辛口白ワインと言ったら、セミヨン主体のソーヴィニヨン・ブランのブレンドだ。「ボルドー・ブラン」と呼ばれることは、ワインをかじったことがある人なら誰もが知っている。シャルドネと似ていて、オーク樽にも恍惚感を持って抱かれ、クリーミーさを生み出す。比較的、栽培が易く、世界中で育てられている。写真
午前0時。三日月が美しいある夜のことだ。 鎮まりかえったキッチンで、冷蔵庫だけが、いや、冷蔵庫の「中だけ」が賑わっていた。ご存じの方もいるかもしれない。だが、あまり公にされていないため、もし初めて聞いた人はここだけの話にとどめていただきたいのだが、冷蔵庫の所有者らが寝静まった頃、実は冷蔵庫内の住人により不定期に「会議」が開催されている。 「住人」と言っても、もちろん人ではない。冷蔵庫にある「食材・食品」のことだ。「人による」「会社による」のと同じで、その会議は「冷蔵庫による」
シュナン・ブランのことを書くのには、少し時間を要す。端的に言って「よくわからない」品種だからだ。 白ワインの品種。フランス・ロワール地方が有名で、アメリカやオーストラリア、そして南アフリカでも栽培されている。ロワールの甘口や辛口から、南アフリカのスパークリング、そして貴腐ワインとつかみどころがないほど、変幻自在に変えられる品種。リースリングのように、酸を追求したワインもあれば、南アフリカでシャルドネのように扱われ、樽ともうまくマッチングさせたり、スパークリングにもなるのだ。
冷蔵庫の片隅に7本入りのネットに入ったオクラ君。別アカウントで再掲にも関わらず、突っ込みどころ満載だからか、どちらでもそこそこコメント(ツッコミ)をもらえたことで、ちょっと調子に乗ってるオクラくん(ネット7本入り)。あろうことか、スポットライトが当たってるからといって、マイケルジャクソンのようなハットを被ってる。 最初はよかったわけ、1週間ぐらいわ。そしたらさ、、、20日ぐらいからまた生えてきてしまってさ、、、 むしろ、濃くなってね!!!!!??? で、クレームの電話し
ヴィオニエほど、花の香りでいっぱいの品種を私は知らない。 ヴィオニエは白ワインの品種。リースリングが果実の酸味と果実の甘さを追求し、ソーヴィニヨン・ブランが草原を馬に乗って走り抜けた時に感じる、風の匂いを持つのに対して、圧倒的に「花」を持つ品種。世界中の比較的温暖な地域で育てられ、ユリ、フリージア、ジャスミンなど様々な花の香りを振りまく。それは熟成した女性の香水ではなく、お風呂上がりの若い女の子のシャンプーの香りのように、どこか清らかだ。 そう。ヴィオニエは、俗な言い方を
今夜はバーボンの恋の話をしよう。 バーボンウイスキー。主にアメリカのケンタッキー州で作られ、原料にトウモロコシを51%以上使わないと、その名を名乗ることはできない。 大麦麦芽(モルト)しか使ってはいけないモルトウイスキーとは異なり、トウモロコシのほんのりとした甘みと、ライ麦や小麦などのまろやかさで、多くの人に愛される味わい。 バーボンはやっぱりかっこいい。 メイカーズマークなんて、赤いロウで一本一本手作業で封をしてたというストーリーを今でも大事にしてるし、特別感を演出する