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#4 『カールじいさんの空飛ぶ家』の映画予告は国によって全然違う。英語xプロジェクト型探究授業の実践 ①
探究の問い:広告は私たちが見る世界に影響を与えるのか
今回、忘れないうちに書き留めておきたいのは、私が国際バカロレアコースの英語の授業で行った印象に残っているプロジェクト型探究授業についてです。
まずは、テーマについて。2009年に公開された、『カールじいさんの空飛ぶ家』(英語では "UP")のアメリカの映画予告、そして日本の映画予告の2つをご紹介します。
【アメリカバージョン】
引用:公式ディズニーピクサーYouTubeより
【日本バージョン】
引用:映画サイトより
初めて見た時は驚きました!同じ映画を紹介しているはずなのに、まるで違う映画のようにテイストが面白いほどに全く違う!!
映画をもし見ていなければ、どちらの予告編に惹かれますか?
アメリカの映画予告はあえてアドベンチャーや面白いシーンが強調されているのに対して、日本は「家族愛」や「友情」をテーマに心温まるシーンや涙を誘うシーンを多く映しています。音楽や演出も全く違います。
なぜこんなにも違うのだろう?
もしかしたら、アメリカ人と日本人の好みの違いや文化の違いが影響しているのではないか?
こんな疑問から、私の同期で親友であるアメリカ人のA先生が提案してくれた「広告」と「文化」の関係性をテーマしたプロジェクトを実際の中学3年生の国際バカロレアコースの英語の授業で行いました。
授業の概要
国際バカロレアの授業では、「ユニットプラン」と呼ばれる単元の指導案の作成が必要なのですが、そこに必ず探究の問いというものを加えます。
これは、生徒にどのようなことを考えてほしいか、どのような探究を行ってほしいかという軸となるものです。
それが、一番最初にこの記事で書いた「広告は私たちが見る世界に影響を与えるのか」というもの。広告とは何か、広告が社会に与える影響はなにか、私たちはそれによって考えや物の見方が変わるのか、などなどさまざま疑問を探究します。
生徒はこれらの問いを英語で話し合い、気になることを調べ、最後にこちらが提示するプロジェクトに取り組んでもらい、その内容を評価します。
また、英語を学ぶのではなく、単元を通して「英語で学ぶ」というのがバカロレアの特徴と言えます。
例えば、広告とは何か、広告の役割、広告×文化、広告×ジェンダーバイアスなどのテーマに関する英語の記事を探して、ワークシートなどを用いて内容を理解したり、出てくる英語の表現について学びながら、さらにテーマの理解を深めます。自身の考えを深めるために英語を読み、聞き、話し、書くのです。
もちろん、文法や語彙などを教科書を使って、こちらが板書して教える場面もあります。しかし、生徒が自ら調べ自ら課題に取り組むことで、生徒が主体的に学ぶことが最も重要です。
プロジェクト:広告を作ろう!
生徒が一番楽しそうに取り組むのが、このプロジェクトの部分です。
今回の「広告」×「文化」とおいうテーマでは、生徒に実際に広告を英語で作ってもらうことに。
宣伝してほしい商品はこれから発売される新型のスマホ(※架空の商品です)このスマホにはどんな機能をつけたいかも自分たちで考えてもらい、なぜその機能が必要なのかも話し合ってもらいました。
そして、条件としてこのスマホを宣伝するにあたって、1つの国、そして年齢層をターゲットに選ばないといけないという設定にしました。そのため、その国の人たちの文化や好み、生活習慣を調べなければいけません。
また、広告はポスターでもよし、CMなどの映像でもよし、パンフレットでもよしとなんでもOKにしました。そしてその広告と一緒に「なぜこの広告がその国の人たちにとって効果があるものなのか」という内容の小論文を英語で書いてもらいました。
生徒はグループで取り組み、助け合いながらあーでもなこーでもないとiPhoneのイメージを膨らませ、ターゲットについて積極的に調べ、最終的には大人顔負けの広告を作ったグループがたくさん。とにかくアイディアと発想に驚かされました。最後にみんなでできた広告を発表しあった時はとても感心しました。
振り返り
生徒たちは大人が思っている以上に、プロジェクトに真剣に取り組んでくれて、想像もしなかった結果を生み出してくれました。
英語を使うだけではなく文化の違いの理解、マーケティングのスキル、思考力なども同時に高められたのではないかなと思います。英語だけではなく、様々なスキルを学べるのも探究プロジェクト型授業の良いところだと思います。
もちろん、プロジェクトをやるにはその準備や導入がとても大変でした。生徒も英語ですべてやらなければいけないので、おそらく内容をかみ砕くのは大変だったと思いますし、全員が意欲的に取り組めたかというとそうではないと思います。
また、バカロレアコースでは評価の仕方が決まっているのでそれに沿って行うのですが、バカロレアコース以外の授業でもこのような探究をする場合は、評価の仕方をどうするか検討しなければいけません。それに、生徒を自由に探究させるのは良いですが、時間を有効に使えるようにタイムマネジメントスキルやセルフマネジメントスキルが備わっていないと無理なので、それらもこちらがどこかで教える必要があるなと感じました。
あとがき
最初にも述べましたが、このユニットは私の同期であり親友、尊敬やまないアメリカ人のA先生と一緒に話し合いながら考えました。A先生と私で習熟度別の授業を受け持っていたので、このユニットをそれぞれのクラスで実施しました。
私が少しアイディアを出すだけで、彼女はどんどん形にしてくれて、彼女自身が学生時代に国際バカロレア校に通っていたこともあり、本当にどこからそのアイディア出てくるの?といわんばかりに面白い視点や興味深い内容を提案し、共有してくれました。すべては彼女のおかげです(笑)
また、授業で使用したプリントなどを誰もが使えるようにと教科書のような1つの冊子にしてくれるなど、本当に感謝することばかり。
彼女と一緒に取り組めたおかげで探究授業についてたくさんの学びがありました。
また、本当にこういう授業が英語学習の役に立つの?と疑問に思う方もいるかもしれませんし、私の中でもまだ答えは出ていません。また別の機会に探究型授業とプロジェクト型授業について今思うことを書きたいなと思います。
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引用サイト:
1) Disney/Pixar’s Up - Official Trailer. (2009, August 18). YouTube. https://www.youtube.com/watch?v=ORFWdXl_zJ4&feature=youtu.be
2) カールじいさんの空飛ぶ家 : 作品情報. (2022, January 31). 映画.com. https://eiga.com/movie/53508/