悩みを抱えるハンドメイド作家リカが自分のコンセプトをみつけるまで①【コンセプト】
たかしがいつものカフェでコーヒーを注文し、窓際の席に腰を下ろすと、目の前にはリカが座っていた。彼女はハンドメイド作家として、編み物の作品を作り販売しているが、最近、その活動に悩みを抱えているという。たかしに仕事の相談をしたいと連絡をくれたのだ。
リカの顔にはどこか疲れた表情が浮かんでいた。彼女は、カフェラテのカップを手に取りながら、ゆっくりと話し始めた。
「最近、自分が作っているものが本当にこれでいいのかわからなくなってしまって…」リカは少し困ったように眉をひそめた。「編み物は昔から好きで、ずっと楽しく作っていたんですけど、作品があまり売れなくなってから、どうしていいのか悩んでいて。」
たかしは彼女の言葉をじっくりと聞きながら、目の前に置かれたコーヒーに手を伸ばした。「具体的には、どんなところで悩んでいらっしゃるんですか？」
「最初は、ただ好きなものを作っていればいいと思っていたんです。でも、最近はSNSで他の作家さんの作品を見ていると、私のものはどこか地味で目立たないような気がしてきて…。もっと個性的で派手なデザインを作らなきゃいけないんじゃないかって思ってしまって。それでも、そういうのを意識して作っても、何かが違うんです。」
リカの声には焦りが混じっていた。自分の作る作品が、どこか他の作家たちの作品に比べて劣っているように感じてしまうという不安。それが彼女の中で膨らみ、創作の手が止まってしまうことが多くなっていた。
「なるほど…それは辛いですね。売り上げに影響が出ると、どうしても焦ってしまいますよね。」たかしはリカの悩みに共感しつつ、少し考え込むように言葉を続けた。「でも、リカさんは、編み物を始めた頃はそういったことを気にせず楽しんでいらっしゃったんですよね？」
「そうです。最初は、編むこと自体が楽しくて、あまり他のことは考えずにただ作っていました。」リカはカップを置き、手元をじっと見つめた。「でも、今は他の人と自分を比べてしまうことが多くて、自分の作品がどんどんわからなくなっていって…。」
たかしは静かに頷きながら、リカの気持ちを受け止めた。彼自身、言葉を使って商品やサービスの本質を伝える仕事をしているが、それは「表現する前に、本当に大事なものを見つけ出すこと」が重要であることを理解していた。
「リカさん、自分のコンセプトが見えなくなってしまうことは、誰にでもあります。でも、そのときこそ自分の原点に戻ることが大切です。リカさんが最初に編み物を始めたとき、何が一番楽しかったですか？」
リカは少し考え込んでから答えた。「祖母が編み物をしていたのを見て、自分もやってみたいって思ったのがきっかけです。自分で編んだものを誰かに贈ると、その人が喜んでくれて、それがすごく嬉しかったんです。」
たかしはその言葉に大きく頷いた。「そうですよね。それがリカさんの原点です。誰かを喜ばせたい、心を込めて作ったものを贈ることが楽しかったんですよね。そこから始まったはずなのに、いろんなことを気にしているうちに、その気持ちが見えなくなってしまったのかもしれません。」
「そうかもしれません…」リカはしばらく黙って考えた。
たかしは静かに続けた。「リカさんが作る編み物は、温かみがあります。それは素材の選び方や色使いに表れている。誰かのために心を込めて作っているからこそ、その温かさが伝わるんです。それがリカさんの強みだと思いますよ。」
リカは目を見開き、その言葉に驚いた様子を見せた。「私の強み…ですか？」
「ええ、そうです。今までリカさんが大切にしてきたのは、誰かに喜んでもらいたいという気持ちですよね。流行や他の作家さんの作品に目を奪われるのも分かりますが、まずは自分が本当に大事にしたいことをしっかり持っていることが重要です。それがコンセプトです。リカさんの作品には、誰かを温かく包み込むような優しさがあります。それをしっかりと打ち出すことが、きっとリカさんらしさを際立たせる方法だと思います。」
リカは少し考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。「私のコンセプトは…温かさを届けること、なんでしょうか。」
「そうだと思いますよ。」たかしは優しく言葉を添えた。「『温もりを編む』とか、そんな感じでリカさんの作品のテーマを表現するのはどうでしょう。手作りの編み物には、機械では出せない人の温かさがあります。それが、リカさんの一番の魅力だと思います。」
「温もりを編む…」リカはその言葉を反芻し、笑みを浮かべた。「たかしさん、本当にありがとうございます。なんだか、自分の中で何かが少しずつ解けていくような気がします。」
「いえ、リカさん自身がすでに持っている答えに気づいたんだと思いますよ。あとは、そのコンセプトをどう形にしていくかです。焦らず、じっくりと取り組んでいけば、きっと自分の作品に自信を持てるようになります。」
リカは力強く頷いた。「これからは、もっと自分の強みを大切にしていきます。誰かを温かく包むような編み物を作りたいです。それが私のコンセプトです。」
「そうですね。それがリカさんらしい作品だと思います。」たかしは笑顔で答えた。
リカは、これまでの迷いや不安が少しずつ晴れていくのを感じながら、もう一度自分の編み物に向き合う決意を固めた。