ECサイトに口コミ欄を載せるべきか?悩んだ北欧ショップの決断とは
たかしの元に現れたのは、北欧の食器を扱うECサイト「ノルディックテーブル」を運営する由美だった。由美は清潔感のある白いブラウスに身を包み、どこか北欧のインテリアを思わせるような落ち着いた雰囲気をまとっていた。
「たかしさん、私、どうしても決められなくて…」
彼女が取り出したのは、自身のECサイトのデザイン案だった。その中で特に目を引くのは「口コミ欄を設置」という項目。
「サイトを運営していると、お客様の声ってやっぱり大事だと思うんです。でも、口コミ欄を作るべきかどうか悩んでいて…」
たかしは腕を組み、由美の話を促すように静かにうなずいた。
「北欧食器って、シンプルで長く使えるものが多いでしょう?だからこそ、どんな使い心地なのか、口コミがあれば買いやすいと思うんです。でも、悪い口コミが入ると、ブランドのイメージを壊してしまいそうで怖くて…」
「なるほど」とたかしは小さく呟いた。「由美さんにとって、一番大事なのは何ですか?」
「北欧食器の価値を伝えることです。シンプルで、機能的で、暮らしを豊かにする。そういう良さを分かってもらいたいんです」
たかしは一呼吸置き、ペンを手に取る。そしてメモに書いた。
「静寂の価値」
「静寂…ですか?」由美は目を丸くする。
「そうです。北欧のデザインには静けさがありますよね。その魅力を伝えるのに、にぎやかな口コミ欄が本当に必要でしょうか?」
たかしはペンを回しながら続けた。
「口コミ欄は、確かに信頼を生み出すツールです。でも、由美さんの商品が持つ"静けさ"や"洗練"を崩してしまうリスクもあります。たとえば、口コミが『これ、高いだけじゃない?』とか『重くて使いづらい』といった声で埋まったら、せっかくのブランドイメージが損なわれるかもしれません」
「でも、お客様の声を無視するわけにはいかないですよね?」由美が食い下がる。
「その通りです。お客様の声を活かす方法は口コミ欄以外にもあります。たとえば、個別にいただいた感想を厳選して、『お客様の声』として公式のページで紹介する。これなら、ブランドのイメージをコントロールしながら信頼感を高められます」
由美は少し考え込んだ。「でも、口コミ欄を載せることで、お客様との距離が縮まる気もして…」
たかしは軽く笑い、もう一つメモに書いた。
「言葉の窓」
「口コミ欄は、お客様の声を"窓"のように見せるツールです。でも、その窓が曇っていたり、壊れていたりしたら、外の景色が見えなくなるでしょう。重要なのは、どんな窓を作りたいか、由美さん自身が選ぶことです」
由美は静かにうなずいた。「口コミを載せることで信頼を得られる可能性もあるけれど、静けさを壊すリスクもある…どちらがブランドに合うのか、しっかり考えたほうが良さそうですね」
「そうです。口コミを載せるか載せないか、どちらが正解かなんて決まりはありません。大事なのは、由美さんが何を伝えたいかです」
帰り際、由美は明るい顔で言った。「たかしさんのおかげで、迷いが晴れました!まずはお客様の声を公式ページで紹介する方法を試してみます。それから口コミ欄を作るか考えてみますね」
後日、由美のサイトには「お客様の声」というページが新設された。そこには北欧の食器がいかに日常に溶け込み、使う人の暮らしを豊かにしているかを感じさせる美しい言葉が並んでいた。そのページはSNSでも話題となり、新たなファンを呼び込む結果となった。
たかしはそのサイトを見ながら微笑む。そして小さく呟いた。
「言葉の窓は、澄んでいれば景色が見えるものだ」