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星を掬う

久しぶりに、心をえぐられる本を読みました。
町田そのこさんの『星を掬う』(中央公論社)。


ホシヲスクウ



子どもの頃、母に捨てられた千鶴(ちづる)。
今では父も祖母も亡くなり、独り。
元夫の弥一からは暴力を受け、金をむしり取られて、廃棄パンで命をつないでいるような毎日だ。

しかし、お金欲しさからラジオ番組の企画に応募し、ある夏休みの母との思い出話を読まれたことで、彼女の人生は少しづつ動き出す…。



正直、前半は痛々しく救いのない状況が続いて、途中でギブアップしようかと思いました。
見たくないもの、知りたくないものが容赦なく突きつけられて、どんどん溢れ出てくるようで。
読んでいると、心が痛くて苦しくなってしまうのです。
それでも読み進めたのは、主人公の千鶴をなんだか放っておけなくて。
この後どうなるのか、どう生きていくのか、気になってしまったから。


千鶴は、元夫から逃げるために「さざめきハイツ」で共同生活を始めます。
そこに暮らしていたのは、自分を捨てた母。
その母を「ママ」と呼んで、娘のように慕う恵真。
娘に捨てられ、今は千鶴の母の世話をしている彩子。


最初は記憶の中の母の姿とあまりに違って、戸惑う千鶴。 
周りと衝突したり、母にも怒りや恨みの気持ちばかりが先立って、自分の思いもうまく消化できません。
弥一への恐怖のあまり、家から一歩も踏み出せずに、先の見えない日々。

それでも、少しづつ皆の過去や傷だらけの心に触れていくうちに、千鶴にもゆっくりと変化が訪れてゆくのです。



この本を読んでいると、人間とはなんて汚く非情で醜い生き物なのか。
同時に、なんて脆くて優しく愛を持った生き物なのかと、思ってしまいます。
そして愛ゆえに、時にとても強くなることもできる。


千鶴と母親はとても不器用で、なかなか本当の気持ちをさらけ出せず歩み寄れません。
けれども、ある病にかかった母の症状が悪化し、いろいろなことが出来なくなってゆく中で、皮肉にも今まで見えなかった娘への愛が姿を現し始めるのです。

靄のかかった記憶の海を漂いながらも、細くてもしっかりとした糸で繋がっている。
あまりに細くて、時々見えなくなってしまうけれど。
大事な思い出は、ちゃんと海の底で静かに眠っているのです。


『星を掬う』というタイトルに込められた意味が明かされ、母娘におとずれた束の間の穏やかな時間に、涙がほろほろと流れました。

途中まで、あんなに読み進めるのが苦しかったのに、最後は爽やかな風すら吹いてきたような。
とても温かい気持ちで読み終えました。
不思議な本です。



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