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雑感記録(17)

以前はどれだけ仕事だったり生活で嫌なことや辛いことがあっても、「本を読めば何とかなる」と本を読み始めて、その世界に気づかぬ間にどっぷりビタビタに浸かることが出来ました。一種の精神安定剤役割を担っていた訳です。

ところが、ここ数ヶ月。あまり思うように読書が出来ていません。本を読み始めても、何故か居心地が悪くなってすぐに手放してしまう。それで何をするかというと、映画、時々画集と言ったような感じで過ごしています。また自分の好きな音楽をかけて、ボーっとしてタバコを吸う時間が極端に増えました。

身体的には余力があって、本を読む体力は十分にあるのに精神的にどこか追いつかなくなってしまっている。僕にとってはこれが1番辛い。要するに「読める状況なのに読める状態でない」というのが何より1番精神的に辛い。

部屋の至る所に本があって、自分のお気に入りの本はいつでもすぐ読めるような状況。環境的には万全ですし、「何読もうかな」とウキウキはするんです。しかし、不思議なものでいざ「読もう」となった時にどうも「むむ?」ってなってしまい、文字を追っかけてその作品世界へ入ることが出来なくなってしまったんです。

もどかしい…非常にもどかしい‼‼‼‼‼‼‼‼

この現状を打破するにはどうしたらいいかと常々考えています。読めない中、無理矢理にでも文字を追っかけるようにすればいいのか。いっそのこと休息として一時的に読書をやめるか。……中々いいアイディアが浮かびません。どうしたらいいんでしょうかね…。


とまあ、こんな暗い話をしても面白くも何ともないので今日はその読書が出来ない間にパラパラと見ている画集について少しばかし書いてみたいと思います。


1、画集との出会い編

僕が画集に興味を持ち始めたのは社会人2年目の頃です。
元々、絵画などに興味はあったのですが、画集を購入してじっくり眺めるという発想というのでしょうか?そういった考えがなくて、絵画は美術館に行って鑑賞するものだ。という思込みが強かったのです。

ある時、営業でとある法人さまを訪問した時のことです。
部屋に入って名刺交換もそこそこに商品の提案や説明を行ったのです。一通り説明し終えた後、何となく部屋を見渡したんです。その時に1枚の絵が壁に掛けられていて、何故か妙に引き込まれました。

僕は気になって社長さまに
「この絵すごく綺麗ですね。誰の作品ですか?」と聞いたんですよね。その時に社長さまは快く「〇〇の作品です。」と答えてくださいました。その後に加えて「これ銅版画なんですよね。」と仰ったんですよね。

僕はそれで答えたんです。
「銅版画ですか…。僕は銅版画だとギュスターヴ・ドレの『旧約聖書』とかあとはダンテの『神曲』の作品とかは凄いなって思っていたんですよね。」みたいなことを話したんです。(確かこんなような感じだった…。彼是2年前の話ですからね)

そうしたら社長さまが「え」というような顔をされました。
やばい、やらかしたか……と冷や汗が流れました。何か地雷を踏んでしまったか…まずいそ…。
しかし、その予想とは裏腹ににっこりとして「凄いですね。ギュスターヴ・ドレ知ってるんですか?中々いないと思いますよ…。」と仰られた。

そこから色々と話をしていく中で、ものすごく意気投合。
今ではプライベートで一緒に飲みに行く程仲良くなっています。
本の交換したりだとか、それこそ僕は絵画好きですけど割と疎い部分があるので「この画家の作品いいですよ」というように色々と教えてもらっています。

この出来事があってから、画集を集めるようになりました。そうして絵画、またインスタレーションだったりそういったものにどっぷり浸かっていくようになりました。これが画集との出会いです。


2、拍車を掛けた大学の友人

出会いとほぼ同じ時期、友人も絵画をよく見るという話を聞いていました。
こう不思議なもので、大体僕が何かに出会う時たいてい同じタイミングで関連したもの、あるいは同じものにハマっているということが多いのです。
それで、僕は上記の話を友人に話をしたんですね。

そしたら、その友人もこの画集がいいぞとか、この展覧会良かったぞなど色々と情報をくれました。

その時は確かブーダンをオススメされた気がします。
これまた不思議なもので、その友人がオススメする画家の作品だったりあとは小説でも、音楽などでもそうなのですが、僕もドハマりしちゃうんです。

現にこのHipHopばかり紹介した記事。HipHopにハマったのは彼の影響が大きいところがありますし

ル・クレジオにハマったことも彼の影響が大いにあります。

彼は本当にいいタイミングでいいものをオススメしてくれるので本当に僕はそれに助けられてばかりいます。
そういったこともあって「よし、画集を集めよう!」という機運が僕の中で高まっていったのは間違いのない事実です。


3、個人的オススメ画集


(ⅰ)清原啓子『清原啓子作品集』

これは社長さまから教えて頂いたものになります。
絵画の話をする中でお互いにどういう雰囲気の作品が好きかという話になりました。その際に僕は「ぼやぼやしてるより、何て言うんでしょうかね…こう精緻な作品の方が好みかもしれません。」なんて話したんですよね。
そうしてこの画集をオススメしていただきました。

実際に見たときに僕は衝撃を受けました。
「なんじゃこりゃ!」と。そうして銅版画でここまで出来るということに驚きを隠せませんでした。というよりも僕の感性にドンピシャに当ててくる社長さまが凄い…恐れ入りました。

31歳という若さでこの世を去り、現在残っている作品はわずか30点。
しかし、この数少ない作品はどれも素晴らしいものばかりでした。
凄いことに、この方は最初に非常に細かいデッサンをしたうえで銅板を削っていくという形をとっているんですよね。そのデッサンの細かさたるや…。

この画集の非常にいいところは、生前の蔵書リストや遺稿が掲載されていることにあります。僕はこの画集の巻頭に掲載されている詩が好きなので一部引用します。

読み耽って来た書物
長い時間をかけて 読み散らしてきたもの
神秘の夢 終りの無い悪夢

私の現実は そこにしか無かった

生まれてきたという罪の 代償が作品か?
果てしなく続く もぐり込む 労働

それ無しに 時からは 逃れられない

何かが見える

清原啓子「清原啓子制作メモ1985年6月20日」
『銅版画家 清原啓子作品集』(阿部出版2017)P.4より


(ⅱ)アンドリュー・ワイエス『アンドリュー・ワイエス作品集』

これは大学の友人からオススメされたものです。
色々と話をしていく中で、ちょこちょこと「ワイエス」というワードが出てきたので気になって購入したものになります。

やはり僕は精緻に書かれた作品が好きなんだなあと改めて思います。
どこまでを精緻と指すかはまあ置いておくとしても、単純に絵のタッチが好きなんですよね。

僕はあんまり人物画というものにあまり興味がないんですが、ワイエスの人物画は何故か引き込まれる部分が多いんですよね。


(ⅲ)ベクシンスキ『ベクシンスキ作品集成』

これはインスタでたまたま発見しました。
最初に見たときは「なんじゃこりゃ!?」という衝撃が大きくて、そのおどろおどろしい雰囲気に僕の脳天はやられてしまった訳ですね。それで調べて購入したという感じです。

調べていくうちに、どうやらベクシンスキの作品を見ると不審死をするという都市伝説があるらしいとのことで、なおのこと興味が湧きました。今こうして僕が記事を書いていられるということは、まだ僕には何も起こっていないということになりますが…。

絵画による異世界体験。正しく。
この作品集成は3つあるのかな?結構面白いのでオススメです。


4、画集を見ることのススメ

上記では個人的オススメ画集として3つしか紹介していませんが、他にもあります。ピーター・ドイグの画集とかも大好きですし、この間購入したエドワード・ホッパーの画集も堪らなく最高でした。

しかし、眺めながら原点に戻ってしまったんです。
「なんで画集を見るんだろう?」と。

単純に好きだから。1番はそこでしょう。
あともう1つ、それは「非言語による記号作品」だからなのかなと。

話は最初に戻る訳ですが、今どうしても僕は文字を追っかけて考えることが思うようにいかない訳です。

しかし、絵画を見ることでも考えることは出来ます。伝達するものが文字という記号を媒介としているかしていないかという違いだけなのではないでしょうか。

ある意味でそこが今の僕にとっては救いとなっています。


はやく本が正常に読めるようになりたいと思っていますが、そこで根詰めて読むことを放棄したくはないので、今は画集や映画やそういったもので日々考える練習を続けていきたいと思います。

今はクールダウンの時期かもしれないと自分に言い聞かして、のんびり自分のペースでこれからも楽しい読書ライフを送れればいいのかななんて思ったりして。

よしなに。

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