春のような温かさがいつもある学校に… 君が凝らした工夫は 君の優しさの表れに他ならない 〜心の宝物269
🌷休み時間の教室で
コロナ機の学校
4年生の教室では、間もなく4時間目の授業が始まろうとしていました。
前の時間は国語。びっしりと、美しく書かれた黒板は、活発な授業の名残。消すのがもったいないほどですが、5分後には次の算数の授業が始まります。
懸命に黒板を清める彼が、いささか気の毒になりました。
このあたりの時間設定について、教諭としての勤務は、中学校しか経験のない私には、途方もない困難、もっとはっきり言えば無理難題に思えてしまいます。
しかし、小学校勤務の長い先生にとっては、そこはさほど大きな問題ではなく、それが当たり前になっているようです。45分の授業の始めと終わりを微妙に調整したり、トイレ以外は片付けと準備に充てたりと、何とか回してくださっていました。
それでも、最初の年度末には、授業の間を10分にすること等、日課の検討をお願いしました。しかし、それに踏み切ることは、子どもたちが楽しみにしている、2時間目と3時間目の間の「20分休み」とのトレードオフになります。外遊びができる休み時間は、コロナ機の子どもたちにとっては、かけがえのない時間です。それをなくしてしまうわけにはいきません。
時間厳守を前提として、教科担任制で教育課程を回していく中学校と、担任がほぼすべての授業を、一定の裁量をもって行う小学校との文化のちがいを学びました。
🌷君がこらした工夫は 君の優しさの表れに他ならない
彼は相変わらず、びっしり書かれた黒板に全力で取り組んでいます。
素早く、ダイナミックな動きで、黒板は瞬く間にきれいになっていきますが、決して乱暴に、やみくもに消そうとしているわけではありません。
まず黒板の左側からとりかかっていました。国語の授業では、黒板は右から縦書きで書かれていくので、一見すると、逆から拭いているようにも見えます。上から下へ。右方向へ。
黒板にはきれいな縦の筋がうっすらと残っています。
縦で全体を消した後、今度は横に拭き始めます。これも黒板の左上から右に向かって横一線に。左から右へ。下方向に。
更にうっすらとした、横方向への拭き跡を残して、黒板は、ほぼ完ぺきな緑色に戻りました。両手に持った黒板消しを、廊下に設置してあるクリーナーにかけた彼が、戻ってきて席に着くのとほぼ同時に、4時間目のチャイムが鳴りました。
担任の先生は、すぐには授業を始められませんでした。
しばらく黒板を眺めた後、子どもたちへ向き直り、
「ありがとう、A君。きれいな黒板だ」と、彼をねぎらいました。
続いて、「A君は、考えをもって黒板を拭いてくれたと先生は思う。みんなはその工夫がわかるかな」と問われました。
何人かが挙手して、
「きれいにしようとした」「力を入れた」「粉が散らないように丁寧に拭いた」
子どもたちは無邪気に答えました。
「うーん、そうだなあ。それもそうだけど、先生が気づいたと思うことを言うよ。まず、4時間目が算数だということを、A君は意識してくれたのだと思う。算数の黒板は、どこから書くかな」
児童は口々に「左の上」と答えます。
「そう。だから、まず、黒板の左側をきれいにしたんだ。左から、上から下へ拭きおろした」
「おおっ」と子どもたちが感心します。
「まだあるよ。算数の黒板は、横書きですか、縦書きですか」
「横書き」という声が帰ります。
「そう。だから仕上げは横ぶきで左から右へ。だから薄く線を引いたみたいで、字や式が書きやすいと思いませんか」
「うんうん、書きやすい」子どもたちは大喜びです。
「A君、これでいいかな。先生はそう思ったのだけれど」
A君ははにかみながら、小さく、しっかりとうなずきました。
「A君がこんな風に工夫することができたのは、彼が心をこめてしてくれたからだと思います。この工夫は、A君の優しい心そのものです。私も、どんな小さな仕事でも、A君のように心を込めたいと思いました」そう言って話を終えられました。
誰からともなく起こった大きな拍手が、学級全体を包みました。
こんな先生や子どもたちと共にあれたことを心から誇りに思います。
かけがえのないあなたへ
素敵なきらめきをありがとう
出会ってくれてありがとう
生まれてきてくれてありがとう
どうか、ありのままで
どうか、幸せで